第四話 ー 『四鳥(しちょう)』
「そろそろ一度目の金策も終わりにしよう。いけるか? シェミィ。」
「はい、召喚しますね。」
杖を突き出すようにしてーー
「おいで、ミスちゃん!」
地面に魔法陣が展開され、光と共にミスちゃんが現れる。
ミスちゃんに乗りながら、ラクネスさんが一声かけてきた。
「毎回思うが、飛べるというのは本当に助かる。」
「とんでもないです、私の唯一の取り柄です。」
「そうか?」
ラクネスさんは口元を緩ませる。
「イエイエイエーイ! いよいよ旅って感じだねぇ、楽しくなってキタヨオオウ!」
「…リーグ、遊びに行くんじゃないんだぞ。」
私はリーグさんを相手にできるラクネスさんが羨ましい。
「でも、どうやって探すんですか?」
私は尋ねる。
「私も気になり、事前に本等を読み漁った。諸説あったが、有力なのは『鳥』を主食としているという情報だった。」
「え、リザベルスってもの食べるんですか!?」
そっちか。
思わず心の中で自分にツッコミをいれてしまった。
ラクネスさんはくすりと笑って、
「覆ったものをのを溶かせるからといって、食べている訳ではない。生物は何か食べなければ生きてはいられないだろう?」
「は、はい。あの…。」
「? どうした?」
「『鳥』が主食なら、ミスちゃんも食べられてしまいますか…?」
ラクネスさんは暫し考えーー、躊躇している。
まさか…
「…厳しい言い方をするが、狙われてしまうかもしれない。」
ラクネスさんは優しい。
私が決して言われたくない事を、はっきりとは言わないでくれた。
「大型の鳥をよく狙うようだ。シェミィ、『四鳥』の話を知っているか?」
「『四鳥』…いえ、知らないです。」
「簡単に説明すると、色の違う複数の鳥の事だ。ーー奴は、それらを追っているらしい。…ただ、この説が正しいかはわからない。」
と言われるとーー
「その鳥達を追っていけば、リザベルスに辿り着くかもしれないという事ですね。」
「ああ。試験的にやってみよう。とりあえず、まずはギルドで報酬を貰いに行こ…、」
私とラクネスさんは気付いた。
またしても、リーグさんがいない事に。
*
「イエーイ! 僕の事わざわざ探してくれたのかーィ? オーケーオーケー、僕愛されてるゥ!☆イヤッホーイ!☆」
あれから私達は、いつも通りの高さでリーグさんを探していたが、リーグさんはなんと雲がかかる高さまで飛んでいっており、ぐるぐる廻って遊んでいたという。
「ダァッテェ、景色見慣れてるしぃ、普段の高さじゃあつまんないんダモォ~ン!」
街中で愚痴っているリーグさんを、ラクネスさんは首もとの服を掴み、みっともないがズリズリと引きずっている。
「せめて報酬だけでも貰ってきてくれたら…。」
ラクネスさんは深いため息をついた。
「でも買い物の時は僕凄かったデショ? 許してヨ~。僕はやる時はやる男なのさっ☆」
「いいからギルドまでいくぞ。」
ギルドから報酬を受け取り、改めて空へ飛び立つ。
「これからどうするんですか?」
「そうだな。洞窟内で四鳥の手がかりを見つけよう。」
「はい。」
私は大事な事を言えずにいる。
勇気を持って、声をかけてみた。
「…あの…実はさっき、四鳥の本買ってみたんです。」
「! 何か有力な手がかりはあったか?」
「参考になるかわかりませんが、四鳥の大まかな生息地が書いてありました。」
私は本を渡した。
ラクネスさんはじっと本を読んで、
「…なるほど。ここの島の…」
二人で本を読んでいたら、
「ヤッホーイ!☆ これでリザベルスと戦えるんだネ、スリル最高ー!☆」
「気が早いぞ、リーグ。そして気を引き締めろ。」
私達はまず、本に書いてあった『リュンガミール』という洞窟に行ってみる事にした。
もうそろそろ日も沈むが、私も頑張ろう。
着いた時には、日が完全に沈んだ夜だった。
「もうこんな時間か。二人共、体力は平気か?」
「平気です、頑張ります!」
「僕なんてもう寝ちゃってたよ~☆ ねぇねぇ、何か食べようヨ~。」
寝ながら浮遊魔法を使い、私達についてきてたの!?
流石はラクネスさんが一目置く訳だ。
「そうだな、何か軽く食べてから行こう。リーグ、頼む。」
「ハイハーイ!」
リーグさんは返事をし、ポンっと袋を出現させる。
中にあるお菓子等を食べて、水を飲み、少しまた元気を取り戻した。
リーグさんに至っては、カップラーメンのお湯まで魔法で沸かして食べていた。
食事を終え、
「アイヨっ」
リーグさんがパンっと袋を魔法で消す。
「さてーー試しにいってみようか。」
「ここが洞窟…」
初めて洞窟というもに足を踏み入れた。
静まりかえっていて、時折ヒタっと水が落ちる音がする。
正直、ちょっと怖い。
「リーグ、近くにいる魔物は何体だ?」
「う~ん、二体位☆」
「そうか…。シェミィ、もう死体には慣れたか?」
「あ…金策の時で大分慣れました。臭いはまだちょっときついですけど、頑張ります!」
私は張り切って応えた。
直後にピタ、という水の滴る音。言っておいて震えた。
「ラクネス~、一体近くまで来てるよ☆」
「皆、来るぞ!」
ゴゴゴゴ…
鈍く大きな音が洞窟内に響き渡る。
瞬間、巨大な手のようなものでザシュっと目の前の岩が砕かれる。
私は怖くて動けなかった。
ガタン、と音がしたと思ったら、
その”手”が地面に転げ落ちていた。
「平気か、シェミィ!?」
「な、何とか…。」
「間に合ってよかった。相手は巨大なロボットのようなものだ。魔法に弱い。」
私は深呼吸して、礼を述べる。
「ありがとうございます。」
私はまだガタガタと震えている。
洞窟とは、こんなにも怖いものだったのか。
「リーグ! 今の敵の数はわかるか!?」
「ウゥ…五体になっちゃったよぅ…。
そんな訳で、ロボットさーん☆ もっと集まってぇ~!☆」
え、そんな!?
声に反応したのか、ロボット達がぞろぞろと出てきた。
「いっくよー、そーれ☆」
ドオオオオン!
…リーグさんが電撃魔法で大量のロボットを一蹴した。凄い。
「ラクネス~、この辺りはロボットはもうイナイヨ☆」
「わかった。もう少し奥まで行ってみよう。」
奥に進むと、先程のように広くはなく、狭い通路が増えてきた。
ガキィン!
ズドズト…
途中、私達は何度もロボットと交戦した。
ラクネスさんの剣捌き、リーグさんの強力な魔法、立ち回り。
今後の為に、しっかりと見ておーー
ミテルダケデイイノカ?
ドクン、と心臓が高鳴る。
マタミゴロシニスルノカ?
「…違う…嫌……やめて…やめてぇぇ!」
私は頭を押さえる。
「シェミィ!」
ラクネスさんの声が聞こえた。
「平気か、動けるか!?」
「ラクネス、さん…?」
私はまたボロボロと涙を流していた。
「…すみません、取り乱して……。」
ひっく、としながら私は応えた。
「何があったかはわからないが、今は自分を大事にしろ。後は私達に任せておけ。」
「ありがとう、ごさいます…。」
鼓動が早いままだ。また助けられてしまった。
…引きずっちゃってるんだな。
ーーそれから、落ち着くのにどの位経っただろう。未だにロボットが大量にいる。
それにしても、ラクネスさんとリーグさんのコンビネーションは本当に圧巻だ。
付き合いが長いというのも頷ける。
数々のロボットを倒していく内に、遂に最深部まで辿り着いた。
「思ったより広い場所だな…。リーグ、どうだ?」
「そうだネ…高いたかぁい所に一体。不信な雰囲気。」
「下に引き付けるのも無理か?」
「う~ん、チョット待ってネ。」
リーグさんはふよふよと上空へ舞い上がった。
こういう時は、リーグさんもしっかりしている。でも、普段のあのテンションにはついていけない。
と思った時、空中でビリビリッと音がした。
「リーグさん、平気ですか!?」
私の叫びと同時に、再度ビリビリッと音がしてーー
「伏せろ、シェミィ!」
「はっ、はい!」
直後、ズドン、と重い音が聞こえた。
「ビンゴだね☆」
落下したその魔物は、とても巨大で、体中が黄色いー
『四鳥』の一羽、『イエローバード』だった。