第三話 ー 旅の始まり
”楽しそうだから”という理由で参加?
何を考えているんだ、この人は。
私の不審な目線を感じとったのか、リーグさんは相変わらずハイテンションで応えた。
「おやおやぁ~? 元気ないねシェミィ~。
僕の気持ち、伝わらないのかな~? ヒャッホーウ! 僕、魔物の気配察知もできるんだよー! イエーイ☆」
「魔物の気配察知…ですか?」
きょとんとした私に、ラクネスさんが声を掛けてきた。
「私から話そう。リーグは、魔法の腕も確かだが、近くに魔物がいるかいないか察知できるのだ。」
「凄い…、頼りになるね。リーグさん、よろしくお願いします。」
私のその一言に、リーグさんは
「ヘイヘーイ☆ 僕にも遠慮はいらないよー☆
呼び捨てでいいよー、敬語もいーらないっ☆」
私はリーグさんのテンションについていけない。
ラクネスさん、付き合い長いって言ってたけど、どうやって付き合ってきたのだろう。
「ではそろそろ出発するか。」
「はい!」
「ラジャー!」
私は再度ミスちゃんを召喚する。
「乗って下さい。」
「助かる。」
「リーグさんも…、」
呼びかけようとして、リーグさんの下に魔法陣があるのを見つけ、
「もしかして、飛べるんですか?」
私は素直に疑問を投げかけた。
「僕位になっちゃうとねぇ~、この魔法陣だけでもたかーく飛べちゃうんだよ~。シェミィは召喚した鳥さんか~、確か人間の言葉を理解できるんだって? 僕も凄いけど、君もなかなかやるね☆」
「ど…どうも。」
魔法陣で高い所まで飛べるーー。
テンションにはついていけないが、ラクネスさんが言った通り、魔法に関してはとても優秀な人なのだと痛感した。
「まずは買い出しだな。リーグ、今袋には何が入っている?」
リーグさんは、ぱっと魔法で袋を出現させる。
魔法については私は疎く、そんな事もできるんだ、と素直に凄いと思った。
逆に、魔導士から見た召喚士というのはどんなものだろう。少し気になった。
「今ね~、二日分の食料しかなぁい! 回復剤のポーションも少ないヨ☆」
「…弱ったな。まずは食料を確保しよう。シェミィ、街に降りてくれ。」
「わかりました、ミスちゃん! 街まで降りて!」
「きゅきゅ」
「空を飛べるのは便利だな。有難い。」
「いえ、まだ見習いです。足手まといにならないといいのですが…。」
ラクネスさんは軽く笑って、
「丁寧語じゃなくていいと言ったろう。まだ慣れないかもしれないが…それも君の良さかもしれないな。」
ふと、先程疑問に思った事を、ラクネスさんに伝えてみる。
ラクネスさんは剣士だけど、聞いてみたかった。
「あの…ラクネスさんは、剣士ですよね? 剣士から見た魔導士や召喚士って、どんな感じですか?」
「? 私か?」
「はい。」
「…そうだな、幼い頃、私が剣の修行を始めた頃だった。怪奇現象かと怖くなった時もある。だが、時を重ねるうちに、徐々に素晴らしい技術だ、と思えるようになった。」
「怪奇現象…そうですよね。ましてや小さい頃の剣士さんから見たら、怖い面もありますよね。」
「ああ。それに私は魔法も召喚もできないが、一種の憧れ的なものはない訳ではない。」
意外な発言だった。
憧れ的なものもあったんだ。
ラクネスさんが続ける。
「ーーだが、今は剣士というものを誇りに思っている。魔法等のように空間的なものはないが、それでも充分魔法や召喚に匹敵する。ーー自分で選んだ道だ。悔いはない。」
「ラクネスさん…。」
ふ、とラクネスさんが辺りを見る。
「ーーすまない、つい長話をしてしまった。買い物を続けよう。」
「は、はい。話、聞かせて下さってありがとうございます」
「私も昔の話等ができてよかった。ありがとう。」
彼女は微笑んだ。
ラクネスさんにお礼を言われると、何だか照れくさい。
時間も私が質問してしまったからだ。
もう夕陽が沈んできている。
「ところで…リーグはどこにいるんだ?」
「ヘイヘーイ! 僕の事、忘れちゃやだよ~う☆
沢山買い物しちゃったよ~! イエーイ!☆」
袋の中を見て、私は目を疑った。
大量の日持ちする食料に、回復剤、着替え、絆創膏…とにかく、旅に必要なものが沢山入っていた。
「…これ、全部リーグさんが買ってきてくれたんですか? お金、払ってくれたんですね。」
「バァッチリ☆ラクネスにつけといたヨ!」
親指グッ!
「…………。」
「イェイエーイ! そんな目したラクネスこわぁい!」
「………。」
ラクネスさんは頭を抱える。
「まぁ旅費だから仕方ない。しかしこれだけ買ったのなら、金策も必要だな。幸い食料は足りているが、どの道通る壁だ。」
「金策ですか。」
「ああ。街から離れた所なら魔物もいるだろう。近くに冒険者ギルドがある。そこで依頼を受けよう。」
「わかりました。」
冒険者ギルドかぁ、知らなかった。
ほぼ毎日飛んでいるのに、何も知らない自分がちょっと恥ずかしい。
これから私は、どれだけのものを知るのだろう。
「…としたい所だが、今日はもう時間がない。宿を見付けて、明日、冒険者ギルドに向かおう。」
「わかりました。」
「ヒャッホー! 僕宿大好きィ! イヤッハー!」
「リーグ、宿では静かにしていろよ。」
*
翌朝ーー。
布団を畳み、朝食や着替え等を済ませる。
最後に鏡を見ながらフードを被ると、
「準備はできたか?」
ラクネスさんが早速声をかけてきた。
隣の部屋でヒャッホー! という声。
リーグさんも起きたのだろう。
「はい」
「よし、行こう。」
*
冒険者ギルドは、宿から10分程歩いた所にあった。
「ここが冒険者ギルドですか…。」
巨体な人々がお酒をのみ交わし、武器や鉄製の盾が売られていたり。
「そうだったな…、二人とも、装備は平気か?」
ラクネスさんが、私とリーグさんに問う。
「あ、私はこの杖で平気です。」
「イエッシャー! 僕も問題ナッシング☆」
「そうか。…少しだけ待ってくれ。」
ラクネスさんはそれだけ言うと、ギルドの一番偉そうな人と話始めた。
そうして文字通り少しだけ待っていると、他のものより少し小さな、銀色の盾を持ってきた。
「盾位は持っておこうと思ってな。魔導士や召喚士といった後衛を守るのも、前衛の務めだ。ーーさあ、依頼を受けよう。」
「オッケーイ! イエーイ!」
「はい!」
リーグさんと同様に、私は張り切って返事をした。
*
最初の依頼は、町外れの魔物駆除だった。
私達は町外れまで空を飛び、やがて地上に辿り着く。
「この辺りのはずなんだが…。」
ラクネスさんが辺りを見渡す。
「ヘイヘイヘーイ! 辺りに一杯いるよーウ!」
「リーグ、大声で叫ぶな。魔物に気付かれる。」
少しして、
ガサガサッ
「! そこか!」
ラクネスさんが素早く反応し、一気に音がした所に間合いを詰める。
ザシュッ
斬りかかった。
…ドサッ。
何がか落ちる音。
そこにいたのは、紛れもない魔物だった。
「う…。」
魔物の死体なんて、見るのは初めてだ。
死臭が漂い、気分が悪くなり、私は目を反らす。
するとラクネスさんが察したのか、
「シェミィ、慣れるまでは私やリーグに任せておけ。」
「はい、ありがとうございます。」
「イイヨイイヨイイヨー!まだ辺りに沢山いるヨォーウ!」
目を反らしている事、数時間。
…何で自分はこんなにも無力なのだろう。
守りたいといいながら、私はいつも助けて貰ってばかりだ。
悔しい。
早く、一人前の召喚士になりたい。
一通り魔物を倒した所で、今日の依頼は達成した。
ギルドに戻り、報酬を貰う。
そんな日々が数日間続いた。