第二話 ー 賛同者
「はぁっ!? シェミィ、あんた本気で言ってんの!?」
私が真っ先に思いを伝えたのは、親友の一人、ルアリーだった。
「あんなん追ってったって、死にに行くのと同じだよ!? どこにいったかわかんないし、せっかくレイさんが助けてくれたのに! あんた何言ってんの!?」
怒鳴られるのも同然だ。
私のしようとしている事は、あまりにも無謀で危険極まりない。自分でもわかっている。
「でも、またこの街をターゲットにするかもしれないよ!」
「そ、それは…。」
ルアリーはう~ん、と唸って、
「今のところはどっかいっちゃったみたいだし、そこまでしなくても…。でもシェミィ、命は大事にしなよ。レイさんもシェミィがそういう事するの、望んでないよ。」
「ルアリー…。」
ルアリーの言っている事はもっともだ。
私にもしもの時があった時、天国にいるレイさんは決して喜ばないだろう。
でも、
「封印が解かれたリザベルスは、またどこを襲撃するかわからないよ。私、襲撃される前に皆を助けたい! これ以上、レイさんのような犠牲者を出したくないっ!」
ーーオマエノセイデシンダノニ?
急に、心臓がドクリと音を立てる。
ーーマタオマエガヒトヲコロスマエニ?
「やめて…。」
「? シェミィ…?」
「やめてえええぇぇっっ!」
「ちょっ…シェミィ!」
*
「ここは…?」
「シェミィ! 意識を取り戻したのね! ここは病院よ。」
「病院…?」
「シェミィ、平気?」
目の前に、お姉ちゃんとルアリーの姿があった。
「私、何で…?」
「あたしを説得中にいきなり崩れ落ちたの、覚えてない?」
「あ……! そうだ、こんな事してる場合じゃない!」
私は慌ててベッドから立ち上がろうとしたら、二人に止められた。
「ルアリーちゃんから聞いたわ。 あなた、自分の命を何だと思っているの! あなただけのものじゃないのよ!?」
「……………。」
私は何も言い返せなかった。
当たり前だ。あんな大口叩いてたくせに、結局はこうして皆に助けて貰ったのだ。
「でもね、」
お姉ちゃんは、はぁ、と深いため息をはくと、
「…賛同者がいたのよ。あなたの意見に。」
「え…。」
「入って。」
ガラガラ、と扉を開けると、入ってきたのは銀髪で、年齢は私より大分上だろうか。
腰にかけている剣が印象的な、クールな雰囲気を持つ女性だった。
「君がシェミィ・ユミアルか。」
声も淡々しており、如何に冷静な人かと伺わせる。
彼女は私の元へと近づいて来る。
「私の名はラクネス・アーレイド。君はこの街でも有名だからね。話はもう聞いている。」
「は、はぁ…。」
「私も大切な人が過去に”溶かされて”いる。今回の件で復讐も散々考えたが、それでは何も生まれない。そこで君の話を聞き、人々を守りたいと思ったのだ。…、もしかしたら、”復讐”を”守りたい”というように心の中で言い替えているのかもしれないがな。」
彼女は苦笑した。
意外だ。最初は落ち着いたイメージだったのに、こんな面もあったんだ。
「言い替え…。」
ーー先程助けたいと思った私も、もしかしたら心のどこかでーー
「よければ、私も同行させて頂けないか。」
ラクネスと名乗った少女は、私に手を差し出してきた。
考え事をしていた私は、思わず戸惑ってしまう。
「え? え、ええと…二人は…。」
お姉ちゃんやルアリーは、呆れ気味に頷いた。
「…ありがとうございます。よろしくお願いします。」
私は、彼女の手を取ったのだった。
*
「平気? シェミィ。 歩ける?」
「もう平気だよ、ルアリー。手間かけちゃってごめんね。」
「本当だよ。」
私の旅の支度が済むまで、ラクネスさんには待ってもらっていた。
「お姉ちゃんも。」
お姉ちゃんは深いため息をついた後、
「ルアリーちゃんと同じよ。心配して言ってるのに。全く、親の顔とあなたの頭の中を見てみたいわ。」
頭の中まできたか。
それは流石にラクネスさんにも失礼ではないだろうか。
「代わりに、ルアリーは私が送っていくから。
お姉ちゃんは私と一緒でいい?」
「好きにしなさい。」
「じゃあ置いてく。」
「…流石に私もそろそろ限界だわ。」
「ごめん、どうせ同じ家だもんね。」
そうして、私はミスちゃんを召喚した。
ちなみに、ミスちゃんは定員三名までだ。
「凄い…」
空中から見る景色はまさに絶景だ。
お姉ちゃんはミスちゃんに乗せた事がないから、特に感嘆している。
「なんで今まで乗せてくれなかったのよ、シェミィ。」
やや不快そうに、お姉ちゃんは私を軽く睨んだ。
「え、誘ってもいつも忙しいって言ってたじゃん。」
お姉ちゃんはため息をついて、
「…後悔したわ。空中から見る街の綺麗さといったら。」
「あ、そっか。お姉ちゃん魔法専攻だから鳥とか召喚できないんだっけ? 浮遊魔法とかは?」
「ちょっと浮ける位よ。こんな高さまでは浮けないわ。ルアリーちゃんは?」
景色を眺めていたルアリーは、突然自分に話を振られ、少したじろく。
「え? あ、あたしも魔法専攻で、少しだけ浮ける位です。この子には度々乗せて貰ってます。」
「ふふ、いいわね。あと、別に丁寧語じゃなくてもいいわよ。」
「は、はい」
こんなあたふたしたルアリー、見た事がない。
ルアリーも、景色を見ながらお姉ちゃんと私に遠慮していたのだろう。
「あ、あたしの家そこなので。失礼します。」
「またね、ルアリーちゃん。」
「はい。」
「オッケー、ミスちゃん、あの家まで!」
「きゅきゅ」
*
「準備はできたか」
ラクネスさんの声が、閑静な路地に響く。
「お待たせしてすみません。」
私がそう言うと、
「気にするな。あと、丁寧語でなくていい。私の事も呼び捨てで構わない。」
「え、では…ラクネス、よろしく。」
ラクネスさんはぎこちなく振る舞う私を見て、微笑んだ。
「そんなにかしこまらなくていい。私達は既に仲間だ。仲間に遠慮するな。」
つられて私も笑う。この人はとても優しい。
「話が反れるが、もう一人仲間に加えようと思う。」
「え?」
思わず目が点になる。
「話は伝えてある。少し変わった奴だが…傷をおったら回復できる者が必要だろう。…出てこい、リーグ・フェンシア。」
ラクネスさんが手招きすると、ボサボサの髪に眼鏡をかけた、リーグと呼ばれた男性が出てきーー
「イッヤホーウ! 君がシェミィちゃんね!」
「…はぁ」
ラクネスさんの言う通り、変わった人だった。
「シェミィでいいです。あっと、あなたは…?」
「え、僕、知られてないの!? そんなぁショックだよ~、この聡明な僕を知らないなんてぇ~。」
……話が進まない。
「リーグは少し性格に問題があるが、腕は立つ。付き合いは長い。丁度魔導士を探していた時、話をしたら是非行きたい、と。だが、リーグが参加したいと言ってきた理由なんだがな…。」
何やら、不穏な雰囲気が漂う。嫌な予感。
「”楽しそうだったから”、だ。」
は?
今なんて言いました?
「イエーイ! ズバリその通り☆ スリル最高ーー!」
ラクネスさんは、やや申し訳なさそうに顔を伏せた。
「…すまない。 腕の立つ魔導士で、参加出来そうな者が彼しかいなくてな…。」
次回も日曜辺りに更新予定です。