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62 スライムさんとマシュマロ

「えいむさん、あたらしいやくそうですよ!」


 お店に入るとスライムさんが、緑色でまっすぐの葉っぱを見せてくれた。

「なにこれ」

「やくそうです! すごくさむいところで、みずをあげなかったら、こうなりました!」

「ふうん?」

 栄養があまりいきわたらなかったことで、不十分な薬草になった、ということなんだろうか。


「これはどういう薬草なの?」

「けがにも、びょうきにも、こうかがないでしょう!」

「え?」

「やくそうは、はっぱにこうかがありますからね!」

「これは、どう使うの?」

「みためをたのしむものです」

「なるほど……」


 私にはまだわからない薬草の世界があったようだ。


 そのとき、カウンターにある、白いものが気になった。

「それ、なに」

「これですか?」


 スライムさんが出してくれたお皿にのっていた白いものは、丸っこくて、親指と人さし指でつくった輪っかくらいの大きさで、五個あった。

 球体かと思ったけどよく見たら太い円柱形をしている。


「なにこれ」

「なんだとおもいますか?」

「わからないけど。ヒントは?」

「まずは、えいむさんのおもうままに、おこたえください」

「えー?」


 五個もあるんだから、一個あたりの値段が安いものだろうか。

 とはかぎらないのが、スライムさんのよろず屋だ。

 これ一個で、たいへんな価値を持っているかもしれない。


 スライムさんのお店にあるんだから、きっと、裏をかいたほうがいい。

「あ、もしかして、ふつうは黒いものかなあ」

「なんですか?」

「火をつけやすくする、黒いかたまりかと思って」


 親が、火をつけるとすぐ燃える、これくらいのかたまりを使っていることがあった。

 小さな火をかんたんに大きくすることができるので、印象的だった。

 急いで火をつけたいときに便利だという。


「なるほど……。では、やってみましょうか」

「え?」


 スライムさんは、魔法の石がついているという、枝みたいなものを持ってきた。

「これは、ひの、まほうせきがついています」

「うん」

「これをつかって、あつあつに、しましょう! おねがいします」


 私は白いものの上に、杖の宝石部分をかざそうとして、止まった。

「ところでスライムさん」

「なんですか?」

「答えは、これで合ってるんだよね?」

「しりませんよ」

「知らないの?」

「はい!」

 そうだったのか。


「えっと、じゃあ、どうなるかわからないんだよね?」

「いわれてみれば、そうですね」

「火をつけていいの?」

「はい!」

 力いっぱい言われた。


「爆発したりとか、しない?」

「ふふふ。えいむさんは、しんぱいしょうですねえ!」

 スライムさんは、くすくす笑っていた。

 でも、なにかのときに爆発したのは覚えてるぞ?


「ぼくがやってみましょうか?」

 そう言って、スライムさんは、さっさと杖を私からとっていくと、杖の先を白いものに近づけた。


「え、スライムさん、だいじょうぶ?」

「だいじょうぶです!」

 スライムさんは、自信はたっぷりある。


 スライムさんが近づけた杖の先は、白いものを熱していった。

 白いものの表面が、オレンジ色になっていく。

 香ばしく、あまいにおいがする。

 さらにスライムさんが熱すると、ちょっとこげてきた。


「スライムさん、離したほうが」

「そうですね」

 スライムさんは杖を引いた。


「これは、なんだろう……」

 においだけでいうと、あまくて、おいしそうだ。


「たべてみたいですか?」

「食べてみたくなる」

 ちょっと、熱で溶けて、やわらかそうだった。

 でも、とんでもないものかもしれない、という思いが、私に最後の一線をこえさせなかった。


「たべてみますか?」

「うーん」

 おいしそうなにおいに、私は最後の一線をこえてしまいそうになっていた。


「わかりました! おまかせください!」

「なにを?」

「なにかあったら、とくべつなやくそうで、えいむさんをいきかえらせてあげますので!」

「私、死ぬの?」

「どうぞどうぞ!」


 食べたくなくなってきた。

 でもまだ興味がある。

 指先でつっついてみると、溶けそうなほどやわらかだったのが、冷めてきていた。

 でもやわらかい。

 ひとつ持ってみた。

 ふわふわしていて、軽い。

 私は、あまい味が口の中に広がるのを想像した。


「ましゅまろです!」

 スライムさんが急に大きな声で言った。


「なに、急に」

「それのなまえを、おもいだしました! ましゅまろです!」

「ましゅまろ?」

「はい! まちがいありません!」

 スライムさんは、自信ありげだった。


「ましゅまろってなに?」

「わかりません」

 スライムさんは、自信なさげだった。


 私は、ちょっと焦げた、ましゅまろ、をお皿にもどした。


「あれ、たべないんですか?」

「ましゅまろって、なんだか、食べ物の名前じゃないみたいじゃない?」

「なるほど?」

「なんか……。なんだろう。ましゅまろ。なんの名前だろう。スライムさんは、なんだと思う?」

「ましゅまろですか……。むずかしいおはなしですね……」


 私は、遠くの景色を想像した。

「鳥の名前かな?」

「とりですか?」

「丸くて、ふわふわしてる鳥」

「なるほど! そういうとりも、いそうですね!」

「でしょう?」

「なら、たべられそうですね!」

「うん……?」


 鳥は食べられるものもいる。

 でもそういうことではないような。


「そういえば、綿って、植物なんだよね。だからこれも、植物かもしれない。糸をつくったりするような」

 私は、ましゅまろを手にとって、ふにふにしてみた。

 それに植物だったら、口に入れてみてもいいような気がしてくる。

 苦かったら口から出して、毒消し草をもらえばいいし。


「わかりました!」

 スライムさんが、ぴょん、ととびあがった。


「なに?」

「ましゅまろというのは、きっと、むし、ですね!」

「虫?」

「なかに、むしがはいっているんです! みのむしみたいなやつが! ましゅまろは、むしの、すです!」

「虫の巣」

「えいむさんの、わた、をひんとにしました! きぬは、むしがつくったいとを、つかってますよね! だから、むしです!」


 私は、この白いものの中から、にゅっ、とイモムシみたいなやつが出てくるのを想像してしまった。

 私は持っていた、ましゅまろを、お皿に置いた。

「えいむさん、どうしたんですか?」

「なんでもない」

「そうだえいむさん、ましゅまろを、ふたつにきってみませんか! なかになにがはいってるか、しりたくないですか?」

「知りたくない」

「え?」

「全然知りたくない」

「そ、そうですか?」


 スライムさんは、ちょっと困ったように私を見ていた。

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