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54 スライムさんと靴下

「あれ?」


 よろず屋に行く途中、また、お店の外にソリがとめられているのが見えた。

 もしかして。

「こんにちは」


 お店に入ってみると、やっぱりこの前のおじいさんがいた。

「いらっしゃいませ!」

「おや、この前の子だね」

 おじいさんはにっこり笑った。


 カウンターにはカップが二つあった。

「えいむさんも、のみますか?」

 スライムさんが言った。

「なに飲んでるの?」

「おさけのあじの、おさけではないのみものです」

「なにそれ」

「ぼくは、やけざけに、つきあっているのです」

「やけ酒?」

「でもおじいさんは、そりにのってきているので、いんしゅうんてんになります。おさけはいけません」

 聞けば聞くほどよくわからない。


「おじいさんは、失敗してしまったんだ」

 おじいさんが言った。


「子どもたちにプレゼントを持っていってあげたんだけどねえ。断られてしまったんだ」

「断られたんですか?」

 よっぽど変なものを持っていったんだろうか。


「窓から家の中に入っていこうとしたら、ご両親に止められてしまってね。渡せなかったんだ」

「勝手に入ろうとしたんですか?」

「そうだね。驚かせようと思って」

「それはいけませんよ!」

 私はつい、大きな声になってしまった。


「ごめんなさい。でも、他人の家に勝手に入ったら、止められるのは当然だと思います」

「プレゼントを持っていても、かい?」

「はい」

「そうか。実はおじいさんも、薄々は気づいていたんだ」

 おじいさんはカップのなにかを飲んだ。


「でもね。いきなり持っていって、びっくりさせたいんだ。だって先に、これを持っていきます、と連絡してからでは、特別なプレゼントにならないだろう?」

「それはそうですけど」

「でも、いいものを持っていってあげているんだよ?」

「でも、だめです」

「そうなんだよね……」

「だから、やけざけです! おさけでは、ないですが!」

 スライムさんはぴょんぴょん、はねた。


「それは、なんとなくだが……、ソリにのって、プレゼントを持っていく人は、だいじょうぶなんじゃないかと思ったんだ……。なぜかはわからないが、許されるような……」

 おじいさんは、ひとりごとのように言った。


 そう言われると、なんとなくおじいさんの言い分を理解できるような気がして不思議だった。

 勝手に人の家に入ったらいけないのに。


 それに、いけないことだけど、気持ちだけはわかる。

 親への説明があると、ちょっと緊張感がなくなってしまうような気がするというか。

 子どもに秘密にしてと頼んでも、親の考え方によっては、子どもに話してしまうかもしれない。


「そうだえいむさん。きょうは、どんなごようですか?」

「え?」

「むずかしいはなしはあとにして、さきにすませましょう!」

「そうそう。靴下を買いに来たんだけど、ある?」

「あります! むそうのくつした、なんてどうですか!」

「どういうの?」

「はくだけで、そのへんのちからじまんにはまけないような、すごいちからがでますよ!」

「それはいらない」

「いらない!?」

 スライムさんは、目を大きく開いた。


 そのとき、私はひらめいた。


「靴下に入れるというのはどうですか?」

「靴下かい?」

「はい。いらなくなった靴下を、窓の外に飾ってもらって、朝になったらそこになにか入ってたら、うれしいですよね」

「なるほど! そうすれば、家の中に入らなくても平気だね!」

「はい」


 ふだん、靴下に穴が空くことというのはそれなりにある。

 穴の空いた靴下は、はかない。

 すると捨てることになる。

 だからといって、捨てるほどだろうか、とはいつも考えていた。

 それを有効利用できるのは、いいことじゃないだろうか。


「じゃあ、まいにち、くつしたをかざっておくんですね!」

 スライムさんは言った。

「毎日は、ちがうような……」

「ちょうどいい、プレゼントがもらえる日、というのがあったらいいわけだね?」

 おじいさんは言った。

「そうですね」

「なるほど。その日に靴下を飾るといい、という、うわさを流しておくと、いいかもしれない」

「それなら、びっくりするし、直接説明に行かなくてもいいですね!」

「やってみるよ。ありがとう」


 おじいさんは何度も私にお礼を言って、帰っていった。


「さすがえいむさんですね!」

「スライムさんは、靴下をたくさん仕入れるところを見つけておくといいね」

「どうしてですか?」

「おじいさんの行事が定着したら、たくさん売れるよ」

「そうですね! ゆうしゃのくつした、をたくさんしいれます!」

「たぶん、それじゃないやつがいいと思う」

「それじゃないやつ!?」

 スライムさんは目を大きく開いた。

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