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05 できるスライムさん

「こんにちは」

「いらっしゃいませ!」

 今日もスライムさんがカウンターの上に現れた。


 なんだかスライムさんがにやにやしている。

「どうしたの?」

「わかってますよ! やくそうがほしい、とみせかけて、ほかのものをほしがるさくせんですね!」

「たしかに、今日は薬草を買いに来たわけじゃないけど」

「やっぱり!」

 なんだか、スライムさんが私のたくらみを見抜いたみたいになっている。なにも考えてないのに。


「ええと、今日は料理に使うナイフがほしいんだけど、あるかな」

「ふふふ、おまかせください」

 スライムさんが口を斜めにするように笑っていた。不気味に見える表情だったけれど、スライムさんなので、だんだんおもしろい顔に見えてくる。


「おすすめのものがありますよ」

 スライムさんはカウンターの奥におりる。

 姿が見えなくなると、なにかを、ズズ、ズズ、と引きずっている音だけが聞こえた。


「ちょっと、ふう、ふう、まって、ふう、ふう、ください、ふう、ふう」

「私も手伝おうか?」

「へいきですので、ふう、ふう」


 カウンターの横の小さな木戸を開いて、スライムさんが出てきた。体で巻きこむようにして、一本の剣を引きずってきた。


「こちらです。ふう」

 剣は、黒いさやに入っている。見ているだけで背筋がぞくぞくするような、ちょっと気持ちの悪い剣だった。私の身長よりも大きい。


「これは?」

「こくりゅうのけんです! すごくきれます!」

 スライムさんは言った。

「いらないけど」

「ふふふ」

 スライムさんが不敵に笑う。


「わかってませんね、らいらさん」

「わかってないのはスライムさんだよ。私はエイム」

「エイムさん。よくきいてくださいね」

「はい」

「だいは、しょうをかねるんです!」



「だいは、しょうをかねるんです!」

 私の反応がなかったからか、スライムさんはもう一回言った。

「はあ」


「ふふふ。えいむさんは、ことわざ、というものをしらないようですね。いいですか? おおきなものは、ちいさなもののかわりにもなる、ということです。つまり、こくりゅうのけんは、ないふよりも、やくにたつんです!」

 スライムさんは言った。堂々としたものだった。


「でも、果物の皮をむいたり、料理に使ったりしたいんだけど。これじゃ、大きすぎるし、片手で持てないと思うよ。使えないよ」

「え?」

「これじゃ、大は小を兼ねないよ」

「だいは、しょうをかねない……?」

 スライムさんは、体を四角くした。


「ぼく、ほんでべんきょうしたんですけど」

「ことわざって、かならず正しいわけじゃないんだって」

「え、ただしくもないのに、ただしいようないいかたをしてるんですか?」

「そうみたい」

「はんざいしゃみたいですね」

 スライムさんは言った。

「そうかなあ」

 そんなことはないと思うけど、スライムさんが言っていることだけ総合すると、そんなふうにも思えてくる。


「でも、ことわざは、いつも正しいわけじゃないって、みんな知ってると思うよ」

「みんなただしくないっておもいながら、さんこうにしてるんですか?」

「うん」

「なんだか、あたまがいたくなってきました……」

 スライムさんは体をゆらしていた。

 私も、なんだか頭がもやもやしてきた。正しくないことも多いのに、参考にするって、変だ。

 どう考えたらいいんだろう。


「スライムさん、今日は帰るね」

「はい、ぼくもきょうはしごとをやめます」

 スライムさんは私と一緒に外に出てきて、看板をひっくり返して、おやすみ、という表示にした。

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