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46 スライムさんと焼きいも

「こんにちはー」

 私はよろず屋に入ると、すぐ戸を閉めた。


「こんにちは、えいむさん! どうかしましたか?」

「ちょっと風が冷たくて」

 急にこの数日、空気が冷たくなってきていた。

 昨日の夜は、急いで毛布を出さないと眠れなかった。


「そうですねえ。ちょっと、ひえますねえ」

「あったかい日もあるから、困るよね」

 寒いなら寒い日ばかりになってくれれば楽なのに。

 なんて思いながらも、本当に寒い日ばっかりになったら嫌なんだけど。


「じつは、えいむさんがよろこぶとおもって、こんなものをよういしました!」

 スライムさんは、カウンターの上に置いてある箱を、ぽんぽん、と押した。

「これは?」

「あけてみてください!」

「うん」

 箱を開けると、中にはお札のお金がぎっしり入っていた。


「わっ、ん?」

 でもよく見ると、一般的に使われているお札と、ちがう絵柄だ。

 スライムさんが描いてある。


「あ、それじゃなかったです」

 スライムさんはカウンターを降りると、ずるずると、別の箱を押してきた。


「そっちは、しゅみです」

「趣味?」

 いったいなにをしようとしているのだろうか。

「これです」

 スライムさんは自分でフタをくわえて開けた。


 中には、いも、がぎっしり入っていた。


「いも?」

「ほくほくになります!」

「ほくほく?」

「やきいもです!」

「ああ!」



 私たちはお店を飛び出すと、裏の木の下に落ちている葉っぱを集めた。

 おうどいろの葉っぱは、ほうきで集めると、カサカサ音がして、すっかりかわいている。

 庭の土の部分に集めると、こんもりと山になった。


「集まったね」

「はい! もやしましょう!」

「うん。あ、でも、私たちだけで火を使ってもいいのかな」

 私は急に気になった。

 子どもたちだけで火を使うのは、家で禁じられていたことだからだ。


「えいむさん? ぼくをなんだとおもっているんですか?」

「え?」

「ぼくは、こどもではないです!」

「スライムさんって、大人なの?」

「えいむさん。ぼくはすらいむですよ? こどもとか、おとなとか、そういうちいさなことは、どうでもいいと、おもいませんか?」

「たしかに」


 あらためてそう言われてみると、スライムさんなら、人間の小さなきまりに縛られる方がおかしいような気がしてきた。

「ひは、これでつけます」

 スライムさんが用意したのは、火の魔法石が埋め込まれたという杖だった。


 私たちは芋を葉っぱの下の方に入れた。

 それから、スライムさんの前で杖を支えて立たせていると、スライムさんがまとわりつくようにして持った。


「つえをもって、ねんじるだけで、ひがつきます!」

「わかった」

「では、いきます!」

「うん」

「はっ!」


 スライムさんが杖をちょっと動かしながら、気合の入った声をあげた。


 すると。


「わっ!」

「わわっ!」


 こんもりと積み上げた葉っぱの山が、爆発した。



 私は尻もちをついてしまった。

 スライムさんは後ろ向きにころころ転がって、よろず屋の建物にあたって止まった。


「スライムさん、だいじょうぶ!」


 スライムさんを抱き起こす。

 目を回していたけれども、はっとして、私を見た。

「び、びっくりしましたね……!」

「スライムさんだいじょうぶ?」

「ぼくはへいきです! えいむさんは?」

「私も平気」

「よかったです!」


 スライムさんは、ぴょんっ、とはねてみせた。

 どうやら本当に平気そうだ。


「なにがあったの?」

「つえを、まちがえたみたいです」


 どうやら、火の杖ではなく、爆発の杖だったらしい。

「危ないでしょ!」

「もうしわけない……」

 スライムさんが、ころり、と前に倒れ、顔を地面につけた。

 土下座のつもりかもしれない。


「今回はケガもなかったからいいけど、これからは気をつけてね」

「はい! さいあくのばあい、えいむさんだけでも、ふっかつさせます!」

「スライムさんも復活して!」


「あれ?」

 私はふと、茶色い、こげたようなものが草の上に落ちているのが目に入った。


 近づいて、拾ってみる。

「あちち」

 これ、いもだ。

 焼けてる?

 二つに割ってみると、中は金色みたいな黄色で、ほくほくだった。


「スライムさん! 焼けてる!」

「ええ!?」

 ぴょんぴょんとやってきたスライムさんは、半分に割ったいもを受け取った。


「すごい! やけてます!」

「ね」

「たべてみましょうよ!」

「うん。じゃ、いっしょにね。せーの」

 ぱくり。


 おいしい。

 あつあつで、たくさんは口に入れられないけれども、ほくほくしてあまい。

 はふはふと食べているだけで、おいしいし、なんだか楽しい。

 それに、いもを持っていると手があったかい。


「あー、あったかくてきもちいですね、えいむさん!」

「うん。うん?」

 気持ちいい?


 見ると、スライムさんは、いもを体の中に取り込んでいた。

 スライムさんの、青みがかった透明な体の中に、いもが浮かんでいる。


「いやー、やきいもって、いいですねー!」

「う、うん」

「またやりましょうね!」

「うん。あ、爆発はだめだよ?」

「わかってます! おもいっきり、もやします!」

「そんなに燃やすのもだめ! やっぱり、子どもだけで火を使ったらだめだね」

「えいむさん、ぼくをなんだと」

「スライムさん?」

 私はスライムさんをじっと見た。

「……きをつけます」

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