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44 スライムさんのベッド

 すっきりと晴れた日だった。

「あれ?」

 いつものようによろず屋に入ろうとしたら、おやすみ、となっていた。

 出入り口の前で昨日のことを考えたけれども、スライムさんがなにか言っていたような覚えはない。


 軽くノックして呼びかけてみたけれども、返事はなかった。

 しょうがない。


 帰ろうと、後ろを向きかけたとき、お店の裏のほうから、ぱしゃん、という水音が聞こえた。

「あっ」

 声もした。


 裏にまわってみると、倒れたバケツと、スライムさんがいた。

 スライムさんは草が生えているところにいて、目をつぶって顔? を上に向けていた。

 バケツはすぐ横に倒れている。


 横になっている、のだろうか。


「スライムさん?」

「……」


 返事がなかったので、私は倒れたバケツを起こして、水場に持っていって片づけた。


「むにゃむにゃありがとうございますむにゃむにゃ」


 声に振り返ると、スライムさんはさっきまでと同じように目をつぶっていた。


「起きてるの?」

「おきてはいないのですがむにゃむにゃ、ばけつを、かたづけてもらってありがむにゃむにゃ」

「バケツはどうして倒れたの?」

「すいぶんを、ほきゅうしてから、ひるねをしようとしたら、ばけつにはいったとき、たおれてしまったんです。じめんにころがったので、そのまま、ひるねをしようと。あ、むにゃむにゃ!」

 元気のいい、むにゃむにゃだった。


「起こして片づければよかったのに」

「えいむさんなら、こっちにきて、このようすをみたら、しょうがないなあ、とかたづけてくれると、かくしんしておりました。むにゃ」

「そんなこと確信しなくていいのに。どうして寝てるの?」

「たまには、ゆっくりやすんでも、いいかとおもいまして」

「え?」

「ああわかってますよ、ぼくがまいにちやすまずはたらいているから、やすんだほうがいい、ということですよね? わかってますわかってます。むにゃ」

「えっと……」

「では、むにゃ!」


 スライムさんは口を閉じた。

 本格的に昼寝をしようとしているようだ。


「そういえば、スライムって、寝るんだね」

「…………」

「スライムさん?」

「…………」


 むにゃとも言わなくなってしまった。


 まだ寝たふりをしているのかと、しゃがんで、つんつん、とつっついてみる。

「…………」

 無反応だった。


 私はとなりに座って、いっそうつんつんしてみる。

 それでもスライムさんは反応なしだった。

 ずいぶんがまんしているみたいだ。


 今度は、ぷに、ぷに、と強めに押してみる。

 手が、ぐぐぐ、とスライムさんの体を押していき、スライムさんの体がのびる。

 それでもスライムさんは目を開けない。


 本当に寝てるのかな、と思ったけれども、ここまでやっているのに起きないというのは、逆に不自然だ。

「スライムさん?」

 寝たふりをしているにちがいない。


 そう思ってもっとぎゅうぎゅう押したり、引っぱってのばしたりしてみる。

 やりすぎにも思えたけれども、私も止まらなくなってしまった。


 ぎゅうぎゅう。

 ぐいぐい。


「…………」

 まだ目を開けない。


「よーし」

 そこまで耐えるなら、と私は最後の手段に出た。


 スライムさんの上に乗ってみた。

 ひざで乗ってみた。

 ひんやりとした体が、私の体重に押されてのびていく。

 のびるけれども、雨の日とちがって充分な弾力があって、ベッドの上にいるのとはまた別の感触だった。

 

 ひざ、すね、と乗ってもスライムさんは目を開けない。

 そのまま、私は体を丸めるようにして横になる。

 すると、すっかり全身がスライムさんの上に乗ることができた。

 バケツの水で水分をたくわえていたと言っていたから、いつもより大きいのかもしれない。


 平べったくなったスライムさんは、それでも目を開けない。

 ほんのちょっと体をゆらしてみると、スライムさんの弾力が感じられる。

 水でできたベッドの上にいるみたいだった。

 ちょっときゅうくつだけど、特別な気持ちよさがあった。




「……むさん、えいむさん、えいむさん!」

 すぐ近くから聞こえてきた声に、はっとして体を起こそうとしたら、地面がくるっと回って私は草原に落ちた。


「いたた」

「えいむさん、だいじょうぶですか?」

 スライムさんが横にいた。


「えっと……」

「ぼくのうえでねてたんですよ」

「あ」

 スライムさんの上に乗って、そのまま……?


「びっくりしましたよ!」

「私も。寝ちゃうなんて」

「きもちよかったですか?」

「え? あ、うん、まあまあ、かな」

「まあまあですか?」

「うん。ついうとうとしちゃったけど、やっぱり本物のベッドのほうがいいかな」

「そうですか……。なんだか、おねがいをするまえに、ことわられたような、ふくざつなきもちです」

「ふふふ」


 本当はとっても気持ちよかった。

 これで手足をのばして眠れたらどんなに気持ちいだろう、今晩からでもスライムさんのベッドで眠りたい、と思ったけれど、それを言ったら本当にそうしてくれそうで、とても迷惑になってしまうから秘密にしておいた。

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