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43 エイムと大人

「そうだ! えいむさん、ちょっと、そとにいってくるので、まっててもらってもいいですか?」


 よろず屋さんでスライムさんと話をしていたら、スライムさんが急にそう言った。


「いいけど、どこいくの?」

「うらに、おもしろいあじのやくそうがはえたので、えいむさんにも、たべてもらおうとおもいまして!」

「ふうん。どんな?」

「ひみつですよ! ……ひんとは、おとなのあじ、です」

「大人の味?」

「そうです! あれがおいしくたべられたら、おとなですねー!」

「スライムさんはおいしかった?」

「ぼくはあんまり……、いえ! とってもおいしかったです!」

 スライムさんは急いで訂正した。


「おさけといっしょにたべると、とてもあいそうですね!」

「スライムさん、またお酒飲んでるの?」

「はい! いえ! のんでません!」

 どっちだ。


「それじゃ、てはじめに、これをたべて、おまちください」

 スライムさんは、カウンターの上に、青い草、黄色い草、緑の草がのったお皿を用意して、バタバタと外に出ていった。


 私はあらためてカウンターの上にある草を見た。

 大人の味ってどんな味だろう。


 私はわりと、おいしいとか、おいしくないとか、いろいろな味が混ざっているものを、大人の味、でごまかしているのではないかと疑っている。

 でも大人になったらわかるのかもしれない。


 そんなことを考えながら、緑色の草を食べてみた。


「ん?」

 緑の草は、見た目は薬草にそっくりだったけれども、ほとんどなんの味もしなかった。

 雑草のようなクセもない。

 食べにくくもないし、でもなんの後味もなかった。

 ある意味ふしぎな味だった。


 黄色い草も食べてみる。

「ん」

 食べたときは、これも味がしないのかと思ったけれども、だんだん、口の中がピリピリとしてくる。


「水」

 と思ったけど、なにもない。

 思わずさっきの緑の草を食べたら、辛味がすっかりなくなった。

 これはこういうときのための草だったのか。


 だったらこれはなんだろう、と青い草も食べてみる。

 最初は、これもなにも感じなかったけれど。

「ん……」

 辛い、気がしたけれどちょっとちがう。

 口の中が熱い。

 その暑さが、口の中だけでなく、だんだん全身に広がっていった。


「う、う……」


 立っていられなくなって、カウンターにもたれたけれども、それもうまくいかなくなって、ずるずると下がっていって、床に倒れてしまった。

 頭がぼんやりとして、だんだん目も開けていられなくなって……。



 はっとした。

 目が覚めたように意識がはっきりしていた。

 さっきまでのはなんだったんだろう。


 体を起こす。

 どこか体が重い気がするけれども、痛みなどはどこにもない。


 そのまま立ち上がろうとして。

「え」

 はいていたサンダルが、なんだか小さい。

 ちがう。


 私はサンダルを脱いで立ち上がった。

 いつもより、視点が高い。

 カウンターを見ると、そこに映っていたのは、大人のような女の人だった。

 でも私と似ている。

 後ろを見ても、誰もいない。


 私……?

 そんなばかな……。


 思ったけど、スライムさんの草を食べたことを思い出した。

 ……そんなこともあるのかもしれない。


 でもどうしよう。

 スライムさん!


 私はお店の外に出た。

 裏にまわって、スライムさんをさがす。


 いない。

 よろず屋の裏、薬草が生えているところにスライムさんの姿はなかった。

 どこにいったんだろう。


 裏を歩いて、そこからお店の前の道まで出ていって、左右を見た。

 いまにもスライムさんが出てきてくれないか、と思ったけれども、そうはならなかった。


 どうしよう。

 このままおばあちゃんになっちゃうんだろうか。


 そのとき、道をおじさんが歩いてきた。

 たしか近所に住んでいる人で、奥さんが、私の母の知り合いだったと思う。

 ちゃんとした話をした記憶はないけれど、おたがい、なんとなくあいさつをしたことは何度もある。

 スライムさんのことを知ってるだろうか。


 そのおじさんは、近づく前から、私のことをじろじろと見ていた。

 私のことに気づいてくれたんだろうか。

「あの」

 話しかけてみる。

「あ?」

「このあたりで、スライムさんを見ませんでしたか? よろず屋の」

「いや、知らないが……。あんた、どこの人だ?」

「え? えっと……」

 わかってない……?


「どこから来たのが知らないが、そんな、露出の多い格好でうろうろされると困るんだよ」

 おじさんは、私の体を見ながら言った。

「はあ……」

 たしかに、私の体が大きくなった関係で、服の面積は減ってしまったように見える。

 でも、それほど気にしなければならないものだろうか。


「なに食ったらそんな体になるんだか……」

「はあ」

「この町で、変な商売始めないでくれよ? あんたみたいなのが声かけたら、この町の男なんて子どもみたいなもんだ。すっかりおかしなことになっちまう」

「はあ。わかりました」

 いまいちなにを言っているのかよくわからないけれど、私はうなずいた。


「別にあんたみたいなのが嫌いなわけじゃねえが、俺は、そういうことを取り締まる立場にあるもんでな。悪く思わないでくれ。ああ、こんなことしてる場合じゃねえ。いいか、ちゃんとした格好をするか、とっとと別の町に行ってくれよ!」

 おじさんは言うと、小走りで行ってしまった。


 なんだったんだろう。

 結局、スライムさんの手がかりも見つからなかった。

 でも、いま話しかけても、私を私だとわかってくれないということはわかった。

 それに、どちらかというと、嫌われていたみたいだった。

 外にいるのは、あまりよくないかもしれない。


「いたっ」

 よろず屋にもどろうとして、なにかをふんで、転んでしまった。


 転がっていた枝だった。

 変に大きくなってしまった胸がじゃまで、足下が見えにくくなっている。

 私は体を斜めにしながら歩くことにした。


「あ」

 お店の中に入ったときだった。

 また、体が熱くなるような感じがして、立っていられなくなった。




「えいむさん? えいむさん?」

 目を開けると、すぐ近くにスライムさんがいた。

「あ、スライムさん」

「よかった! びっくりしました!」


 体を起こすと、私は、よろず屋の床に寝ていたようだった。


「あたまとか、いたいですか?」

「ううん。頭も、体も、どこも痛くない」

「よかった! ちょっと、よりみちしてました!」


 スライムさんは言って、カウンターの上にのぼった。

「うっかりしてました! ぼく、まちがって、へんなやくそうをおいていってしまったんです!」

「変な薬草?」

「あおいくさ、ありましたよね! それをたべると、とくべつなこうかがあるんです!」

「特別って?」

「それは、ひとによって、いろいろちがうみたいです!」

「スライムさんは?」

「ぼくは、みっつにぶんれつします」

「ええ!」

「えいむさんは、どうでしたか?」

「私? 私は……」


 どうだったっけ。

 なにかあったような気がするけど。


 カウンターに反射した自分の姿を見る。

 なにか、とても驚いた気がするけど、覚えていない。


「黄色い草が、辛かったのは覚えてるんだけどなあ……」

「そのときは、みどりのくさをたべると、からくなくなります!」

「うん。それも覚えてるけど……」

「……もういっかい、たべますか?」

「やめとく」

 なんだか大変なことになったような、気がする。

 なんだったかな。

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― 新着の感想 ―
[一言] エイムちゃん、大人になったらボンキュッボン?
2023/02/24 20:55 退会済み
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