411 スライムさんとイニシャル
私はよろず屋に入り直した。
「いらっしゃいませ、Eさん!」
スライムさんが、カウンターの上にぴょん、ととびのった。
「こんにちは、Sさん」
「きょうは、どんなようじですか?」
「ええと、薬草を買いに来たんだけど」
「いらっしゃいませ! どんどんかってください!」
「ひとつでいいよ」
「はい!」
「……これでいいの?」
私が言うと、スライムさんは満足そうにした。
「これが、いにしゃる、とーくです!」
スライムさんは言った。
イニシャルトークとは、会話をするとき、ある法則に従って人の名前を単純にして、呼びながら話をするのだという。
「これがいま、なうなやんぐに、ばかうけなんです」
「ふうん?」
「ちなみに、ばかうけというのは、おかしのなまえだそうですよ!」
「お菓子?」
なうなやんぐが、お菓子?
いや、なうななんぐに、お菓子? お菓子をあげる相手のことを言っているのだろうか。それがイニシャルトーク?
なうなやんぐ、が人の名前とか、職業とか、グループみたいなことなんだろうか。そういう人たちに、ばかうけ、をあげることが、ちょうどいいというかなんというか……。
なうなやんぐにばかうけ、は、ことわざみたいな使い方をするものなのかもしれない。
「でもさっきの説明だと、イニシャルに、エムっていうのもあったよね」
「はい!」
「私の名前に似てない?」
「たしかに」
「だったら、私のイニシャルは、Eさんより、エムなんじゃない?」
「!? たしかに、そうかもしれませんね!」
「じゃあ、エスさんと、エムさんだね」
「はい!」
「エムが……。ワイを買おうかな」
「わい!?」
「薬草」
「!? もう、いにしゃるを、つかいこなしている!?」
スライムさんは、カウンターに置いてある、イニシャル表を見た。
「実はさっき、薬草は、ワイだな、って確認したんだ」
「すばやい! さすがですえいむさん! いやえむさん!」
「ふふ。じゃあ、オーを払うね」
「おかね、ですか!? これも、さっきしらべていた!?」
「ふふ」
「……はっ!?」
スライムさんが、ぷるん、とふるえた。
「もしかして……。ぜんぶのものに、お、をつけてよべば、ぜんぶのいにしゃるが、おーになる……!?」
私ははっとした。
「……スライムさん」
「えいむさん! いにしゃるが!」
「おどろきすぎて、忘れてた。エスさん」
「なんですか、えむさん!」
「エスさんは、とんでもないことに、気づいてしまったかもしれない……」
「それは!?」
「イニシャル界の常識を、ひっくり返してしまう大発見をしたんじゃないかな」
「だいはっけん!?」
「すべてのいにしゃるが、おーになる。すべてがおーになる、だよ!」
「!? なんだか、すごいはかせが、でてきそうです!」
よくわからないけれど、雰囲気に説得力があったので、私はうなずいておいた。
「オーさんは、すべてのイニシャルを、終わらせてしまった……」
「ぼくのいにしゃるがおーに! えむ、いえ、おーさんのいにしゃるも、おーに!」
「こうなると、オーが、オーを買いにオーに来て、オーさんと話をしながらオーについて考えて、オーを払って帰ることになるね」
「なんだか、いにしゃるまで、おーになっているような!」
「全部、オー、と呼べばいいんだよ、オーさん」
「おーさん!」
私たちはうなずいた。
「……でも、おスライムさんって呼ばないから、ちょっとちがうかもね」
「はい!」




