402 スライムさんと怪談
スライムさんのお店の前に、階段があった。
三段しかない。木製のようだ。
「いらっしゃいませ!」
スライムさんが、階段の背後からちょっと顔を出した。
「こんにちは」
私は階段にひざをついて、上からのぞいてみた。
「おっと! さっそく、かいだんを、かつようしてますね!」
「ふふ」
「しかし! かいだんは、こわいですよ?」
スライムさんが意味ありげに笑う。
「どういうこと?」
私は階段からおりた。
「かいだんには、べつのいみがあるんです……」
「別の?」
「はい。かいだんは、こわいものなんです……」
スライムさんは私をしっかり見つめて言った。
「つまり……?」
「つまり?」
スライムさんは、きょとんとした。
「えっと、どういう怖いものなのかと思って」
「くわしいはなしは、やめましょう。ちょっとむずかしそうなので」
スライムさんは言った。
「スライムさんも詳しくは知らないんだね」
「そうです!」
「ふうん」
私は、一番下の段に座ってみた。
「あ、えいむさん! あぶないですよ!」
「でも、このお店にも、ちょっとだけ階段があるし……」
お店の前を見た。
「たしかに」
スライムさんは納得した。
「階段がこわいって、どういうことだろう……」
私は考える。
「転んだ人がいたのかな?」
私は段をさわった。
「ころぶと、こわいですか?」
「もしかしたら、スライムさんは転んでもケガをしないのかもしれないけど、人間は、かんたんにケガをするからね」
「かんたんに、ですか?」
「場合によっては、死にいたるね」
「しに! かいだんで!」
スライムさんは、ふるえあがった。
「それはこわいですね!」
「うん。だから、階段がこわいっていう人の気持ちもわかる。長い階段だと、上から見たとき、なんだか吸い込まれるような気持ちになることもあるよ」
高いところにいるときもそうだ。
階段をおりずに、下をながめていると、なんだか変な気持ちになってくる。
ずっと、ずっと下のほうから見えないなにかに、すーっ、と引かれているような。
くらっ、くらっ、と体がゆれてしまいそうな気持ちだ。
「すいこまれる」
スライムさんは、ぴょん、と一番上の段に乗った。
それからぼうっと、三段下を見る。
すうっ、とスライムさんが前に出て、転がり落ちた。
「スライムさん!?」
私はあわてて抱き起こした。
「はっ! ぼくはいったい!?」
「階段から転がり落ちたんだよ!」
「え? まさか!」
おどろいた顔をしていたスライムさんだったが、また、ぴょん、と階段に乗ってしまった。
目がなんだか、ぼうっとしている。
「すいこまれる」
また落ちそうになるので、スライムさんを支えた。
「危ない」
「おっと! たすかりました!」
スライムさんの目が、シャキッとした。
「すいこまれるといういみが、わかったような、きがします……!」
「私のは、上に吸い込まれるんじゃなくて、上に行ってからだけどね……!」
「こじんさです!」
「なるほどね!」
『階段って怖いよね』
「はい!」
「そうだね」
私は、まわりを見て、ちょっと耳をすませた。
「いま誰かいた?」
「どうですかね?」
スライムさんの目が、また、ぼうっとしてくる。
ぼやっ、と階段からなにか見えた。
「この階段、なにかいた?」
「どうしてですか?」
「うーん。なんか、ぼんやりと」
「こわいはなしですか? やめてくださいよー、もうー」
スライムさんは笑った。
私は微妙な笑顔だったと思う。
なんだろう、これ……。
「えいむさん!」
私はスライムさんの声ではっとした。
階段の一番上に立っていて、遠くを見ながら、ふらふら、くらくらしていた。
階段にのぼると良くない気がしたので、私たちは、バケツや、ブラシなどの物を置いておくことにした。
階段というより棚だな、と私たちが考えるようになると、気にならなくなった。




