384 スライムさんと恋
スライムさんは、ぴょこぴょこと移動していた。
お店の近くの草原を、ぴょこぴょこと。
しばらく動くと、止まった。はあ、とため息をつく。
そうしてまたぴょこぴょこと。
ぴょこぴょこ。
はあ。
そんな声が聞こえてくるようだった。
私は手を振りながら近づいた。
「こんにちは」
「! こんにちは!」
スライムさんが、ぴょん、とその場でとんだ。
「散歩?」
「はい! ……はあ」
スライムさんは、意味ありげにため息をついた。
「おつかれ?」
「いいえ。じつはぼく、こい、をしてまして……」
「恋!?」
私は思わず声が出た。
「こい、しってますか?」
「私も、知っているというほど語れることはないけど」
「そうですか……」
「スライムさんは、誰に恋してるの?」
スライムさんは、不思議そうな顔をした。
「だれ、とは?」
「うん?」
「こいとは、あいてがいなければいけないんですか?」
「と言うと?」
「こいは、こい、だけをしても、いいんですよ!」
「……!?」
恋だけ!?
私は、スライムさんの言葉をゆっくり飲みこんだ。
飲みこみきれなかった。
「ちょっと難しいかもしれない」
「えいむさん。こいは、むずかしいんです!」
「そうだね」
言われてみればそうだ。
恋がかんたんなんていう話、聞いたことがない。
「でも、その恋は、どうやって実らせればいいのかな?」
「えいむさん。こいは、みのるばかりじゃ、ないんですよ」
「たしかに」
言われてみればそうだ。
恋が実るのは難しいと言われている。
「じゃあ、実らない、苦しい恋にならない?」
「たのしいだけのこいなんて、おもしろくないですよね?」
スライムさんが、にこっと笑った。
にがくて苦しい恋を!?
「なんか、今日のスライムさんは大人かもしれない」
「そうですか? ぼく、おとなですか?」
「うん」
「とないむ、とよんでもいいですよ!」
「大人スライム。トナイム?」
「はい!」
「なら、となりのスライムさんでもトナイムだね」
「!? おとなで、となりのすらいむだったら!?」
「トナトナ」
「!? いむが、ない!?」
「いなくなっちゃった」
「もう、えいむさんったら!」
スライムさんは、体でぷに、と私を軽く押した。
「ふふふ。ところで、どうしてスライムさんは恋をしてるの?」
「こいに、りゆうがありますか……?」
「トナイム!」
「ふふ」
スライムさんはちょっと歩いては、意味ありげに、ため息をついた。
ちらっと私の反応を見ているので、ちょっと大人ではないかもしれない。
「あ、チライムさん、今日はこれから雨が降るみたいだよ」
「ちらいむ!?」
スライムさんが、意味ありげなため息、の途中で目を見開いた。




