382 スライムさんと関税
やくそう、ねあげしました。
表の看板にそう書いてあった。どうしたんだろう。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ……」
スライムさんの言葉は、力がないように感じられた。
「薬草が値上げって書いてあるけど」
「はい。ひとつ、20ごーるどです……」
「20ゴールド?」
思わず出た私の言葉に、スライムさんはゆっくりうなずいた。
「はい」
「どうしてこんなことに?」
「じつは……。かんぜいです」
「かんぜいって?」
「ぜいきんです!」
「どういう?」
「?」
「?」
私たちは薬草を食べて考えた。
「つまり、関税がかかったせいで、物の値段が上がっちゃったの?」
「そういうことです!」
「関税っていうのは、どういうもの?」
「しいれるときに、ぜいきんが、……うっ」
スライムさんが倒れた。
「スライムさん!」
私はスライムさんを抱き起こす。はあはあと、呼吸が乱れていた。
「むずかしいことを、かんがえ、すぎました……。がくっ」
「スライムさーん!」
「……」
「……」
「ぜいきんって、いろいろあって……」
「まだ、だいじょうぶなの!?」
スライムさんの呼吸が整った。
「つまり、関税っていうのは、他の国から仕入れるものにかかる税金なんだね?」
「はい! かんぜいは、ねだんがあがります!」
「なるほどね。急に上がったの?」
「そうです! かんぜいを、あげる、かかりのひとが、あげます!! といったので、あがりました!」
「そんな感じなんだね」
「はい!」
「薬草だけ?」
「いろいろ、あれですが、まあ、とりあえず、やくそうだけみたいです!」
「なるほど?」
「かんぜいがあがると、うってるひとも、かうひとも、ねだんがあがるので、こまります!」
「じゃあどうして上げるの?」
「それは……。あれです!」
「そっか」
あれらしい。
「いっせつには、このくにで、うってるやくそうがたかいとき、ほかのくにからやすくしいれてしまうとこのくにのやくそうがかわれなくなってしまってやくそうをつくるひとがいなくなってしまってでもほかのくにからやくそうをかえなくなったときにこまってしまいますしほかのくにもたかくなるかもしれなくて」
「スライムさんスライムさん!」
スライムさんの体から湯気が出ていた。
「だいじょうぶ?」
「はい」
スライムさんの頭に、水でぬらしたタオルを置いたら湯気が出なくなってきた。
「あぶなかったね」
「くろうを、かけますね……!」
「それはいいっこなしだよ、スライムさん!」
「あとちょっとで、ぜつめい、してました……!」
「あぶない!」
「でも、ほんとうに、あぶないのは、やくそうです……。すっかり、ねだんが……」
「……ねえスライムさん」
「なんですか?」
「このお店の薬草って、特別なやつ以外は、裏庭で作ってるんじゃなかったっけ?」
「そうです!」
「じゃあ、関税はかからないんじゃ……?」
「!?」
私たちはお店でのんびり薬草を食べた。
「うらにわで、つくっていて、たすかりました!」
「道具屋さんは、値上げかな?」
「!? じゃあ、うちから、すこし、うってあげますか?」
「いいの?」
「ふふ……。どっちみち、うちのやくそうが、うれる。そういうことですよ」
「やるね!」
「ふふ!」
めずらしく商売人のスライムさんだった。




