377 スライムさんと濃霧
お店に向かっていたら、なんだか煙のようなものが見えた。
近づいていくとやっぱり、もくもくと、煙のようなものがあった。お店が燃えているわけではなくて、その手前だ。
また、たき火でもしているのだろうか、と思ったけれど、それにしては煙が多いし、上がっていくわけでもなくその場にとどまっている。
私はそれを大きくまわりこんで、お店に入った。
「こんにちは」
スライムさんはいなかった。
どこに行ったのだろうか。
しばらく待っていた。
「ん? わっ」
そうしたら、もくもくがお店の中に入ってきた。
入口に背中を向けていたので、気づくのが遅れてしまった。
たちまち私はもくもくに包まれて……。
「いらっしゃいませ!」
「あれ? こんにちは」
スライムさんが現れた。
「スライムさん、いまお店の中にこの、煙みたいなものが入ってきて」
「はい!」
「知ってた? どうしようか」
「きょうは、きりが、こいですね!」
「うん?」
「はい?」
私とスライムさんは、一緒に首をかしげるようにした。
「霧?」
「はい! もう、ずっと、もくもくです!」
「霧……」
言われてみれば、煙のように、呼吸が苦しくなるとか、ものが燃えるようなにおいがするとか、そういうことはない。
ただ白い。
私はちょっとお店から出てみた。
するとすぐ白いものから離れて、さっきまでと同じように遠くが見える。
お店の中だけがもくもくと、煙っていた。
私はまたお店に入った。
「えいむさん、はなれたら、みえなくなっちゃいますね!」
スライムさんは、ちょっと楽しそうに言った。
「霧って、たしか、湿気が多い日で、急に気温が下がると、出るってお父さんが言ってた気がする」
「そういえば、きのうは、あったかかったですね!」
「湿気か……」
私はスライムさんをさわった。
ひんやりしているし、しっとりしている。
「スライムさんの湿気が……?」
「ぼくの、しっけ!」
「どうしようか」
私は、近くの箱のふたを持ってきて、スライムさんをあおいだ。
ふわー、っと霧が流れていく。
でももくもくと、スライムさんのまわりに霧が出てくる。
こんなにすごい勢いで出てくるなんて。
「ん?」
私は、あおぎながらスライムさんに近づいた。
頭のてっぺん。なにかある。
「あちっ」
つまんだら、熱くて手を離してしまった。
床を転がる白い小石。
「なにこれ」
「あ、これは、あつあつのいしです!」
「魔法石ってこと?」
「そうです!」
「え、それって、スライムさんの水分が蒸発してたってこと?」
「たぶんそうです!」
きっと、商品をならべているときに落ちてきたとか、そういうことだろう。
スライムさんの頭のてっぺんに、穴が空いているように見える気もしなくもない。
「だいじょうぶなの!?」
「だいじょうぶです!」
スライムさんは力強く言ったけれど、私はスライムさんを抱えて外に出た。
お店の裏で水をかけた。
すこしふくらんだ気がする。
「どうかな」
「げんきです!」
「気をつけてね!」
「はい!」
返事はいい。
「あ」
私は思い出して、水を入れたバケツを持ってお店の中にもどった。
石が、床をじりじり焼いて、白い細い煙が上がっていた。
私は急いでふたで、引っかけるようにして石をバケツに入れた。
「わあ!」
とたんに、もくもくと大量の霧、いや湯気が出てきた。
私はなんとかバケツを持って外に出た。近くに置いて離れる。
「……すごいね」
「すごいです!」
バケツから、もくもくもくもくと、雲のように湯気が出続けていた。
「あれは、どうやって保管してたの?」
「もう、あつくなったら、ほかんできません!」
「待ってたら終わるの?」
「はい! しばらく!」
「しばらくね」
私はお店の中でスライムさんと話をしたりしながらすごした。
たまに、湯気がすくなくなったら水を足した。
「水がないと湯気が出ないもんね」
「はい!」
いつしか湯気を見るのが目標になっていたことに、家に帰ってから気づいた。




