336 スライムさんとビブラスラップ
「なにこれ?」
私はカウンターの上に置かれたものを見た。
「それは、びびびびすらっぷです!」
「ビビビビスラップ?」
「はい!」
「なににつかうの?」
「それが……、わかりません」
スライムさんはちょっと力なく言った。
「しょうひんを、もってくるのがおくれたと、しいれのひとに、おまけでもらったんです!」
「その人はなんて言ってたの?」
「これ? これはねー……、ってかえっていきました!」
「なるほど」
知らないらしい。
私はあらためてよく見た。
金属の棒で木の小箱と球がつながっている。
棒は、長い棒を半分に折り曲げて、両端をそれぞれ、箱と球につなげてあるような形だ。ただ棒は、まっすぐではなく一度折り曲げられた部分の近くでもう一回曲げられているので、大ざっぱに見ると二重の、へ、のような形になっていた。
小箱は私の手のひらに乗る大きさで薄い。中には硬貨が数枚くらいしか入らなそうだ。
球は卵より小さいくらいの大きさだろうか。それらが金属の棒でつながっているのだ。
「飾りかな」
私は、ビビビビスラップの箱の部分を持ってみた。
「どういうかざりですか?」
「わからないけど。箱と、球が、なにか意味があるのかなあって」
「なるほど……。あさと、よる、とか」
「おー。かもね」
棒はしっかりしている。
ぐっと引き寄せてみると、球と箱がくっついた。
「朝と夜を合わせてみました」
「! これが、ひる……!」
スライムさんは感動にふるえていた。
「スライムさんの言うとおり、芸術作品かもしれないね」
「じゃあ、あさと、よるを、はなすとどうなりますか!」
「え? ええと」
私は右手で棒の、箱と球から一番離れたところを持って、左手で球を持って引っぱってみた。
「かたいから、あんまり動かないね」
私がもっと引っぱって離してみようと思ったときだった。
つるっとすべった。
箱と球がぶつかる。
「わっ!」
「わっ!」
カカカカカカカカ! というように細かくすごい速さで連続して球と箱がぶつかって音を立てた。
「びっくりしたね」
「びっくりしました!」
私たちは顔を見合わせた。
「こわれてないかな」
私は球を持って、いろいろな角度から見ようとした。
するとまたすべった。
カカカカカカカカ!
「わっ!」
「わわっ!」
また音がした。
「えいむさん!」
「ごめんごめん。でも、がんじょうなんだね、これ」
私はちょっとさわった。
しっかりしていて、こわれそうな雰囲気はない。
「なんでしょうね?」
スライムさんが、かたむいた。
「うーん。飾っておくとしても、どういう向きで飾るのかもわからないなあ」
「もしかして、まほうぐ、ですかね?」
「魔法具? そうかもね」
私以外の人が使うと、カカカカ、という音だけではなくて、なにかが起きるかもしれない。
「なにがおきるとおもいますか?」
「うーん。雨が降るとか?」
「なるほど?」
「スライムさんはどう思う?」
「うーん。おとが、なれば、なるほど……」
「鳴るほど?」
「じょうほうが、いっぱいでてきて、あたまがいっぱいになって、なにも、かんがえられなくなります!」
「なんかすごそうだね」
「はい!」
「じゃあ、これはどこに置く?」
「あのへんに、ひっかけてください!」
私は、スライムさんが言った、壁から出ているフックのところまで持っていった。
ちょっと思いついて、また球を引っぱった。
離す。
カカカカカカカカ!
「えいむさん!」
「へへ」




