327 スライムさんとおまけ
「こんにちは」
私はお店に、横向きで入ってみた。
「いらっしゃい、ませ……!?」
スライムさんが、カウンターの上で、びくっとした。
「いらっしゃいませ!」
スライムさんも横向きになった。
「じゃあ、薬草をもらおうかな」
私は正面に向き直った。スライムさんも急いで元通りになる。
「へいおまち!」
スライムさんは、カウンターの中の薬草を取ろうとしかけて、止まった。
「えいむさん、しんせいひんの、やくそう、いりますか?」
「新製品? 食べたら火を吹くとか?」
「はっはっは! そんなのうりませんよ!」
「あるのは、あるんだね」
「しんせいひんやくそうは、ふつうのやくそうです!」
「じゃあもらおうかなあ」
私が言うと、スライムさんは、横にあった箱を、ずりずり体で押してきた。
「どうぞ!」
箱は木箱だ。
上に穴があいている。
「中に入ってるの?」
「はい!」
私は手を入れて、中に入っているものをさぐる。
一枚取り出した。
紙だ。
「薬草がなかったよ?」
「それに、かいてあるものが、おまけです!」
「おまけ?」
「しんせいひんの、おまけつき、やくそうです!」
スライムさんが、ばばーん! と言った。
「おまけ?」
私は紙を見る。
はがねのつるぎ、と書いてあった。
「はがねのつるぎ?」
「そこのけんを、もってかえって、いいですよ!」
スライムさんは言った。
壁に、立てかけてあるこの剣のことらしい。
「薬草のおまけが、これじゃ、まずいんじゃない?」
私は、さやに収まっている、はがねのつるぎを持ってみた。ずっしり重い。
「えいむさん。ぼくが、さいさんを、かんがえず、またあたらしいしょうばいをはじめた。そう思っていますね?」
「うん」
「えいむさん! ひどいですよ!」
スライムさんが、ぴょーん、ととんでぶつかってきた。
ぷに。
「ごめんね」
「ゆるします!」
スライムさんは、はなれた。
「でも、どういうこと? お金のことは考えてるの?」
「ふふ。そうです。これは、おまけのほうが、おたかい、しょうばいです!」
スライムさんは、にやりとした。
「薬草に、剣がついてくるのが?」
「はい! いま、おおきなまちでは、おまけつきのやくそう、といって、もっとたかいものをうるのが、はやっているらしいです!」
「そうなの?」
「はい!」
「なんでだろう」
「それは……、なんででしょう」
スライムさんが止まった。
「ええとじゃあ、おまけつき薬草は、1個1500ゴールドくらいするの?」
「はい、そうです!」
「お高いね」
「はい!」
「なんでそんな売り方をするんだろう」
「それは……、なんででしょう」
スライムさんが止まった。
「売れてるの?」
「らしいです! どうぐやとか、ぶきやとか、いろいろなところで!」
「道具屋。武器屋。いろんなところで……」
私は考えた。
なにか引っかかる。
「なにかわかりましたか?」
「お店に、置けないはずの商品を、置くため……?」
「どういうことですか?」
「ほら。道具屋で急に剣が売ってたら、びっくりしちゃうでしょ?」
「はい! どうぐやなのに!」
「でも、おまけつきの薬草の、どれかに剣がついてるだけだったら、そんなに気にならないかも」
「たしかに!」
「道具屋で武器を売りたいとか、反対に武器屋で薬草を売りたいとか、そういう人たちが、試してるのかもね。それでうまくいったら、本格的に、お店に置いてみるとか」
「なるほど! ありそうです!」
「ということは。おまけつきと言いながら、おまけじゃなかったんだよ!」
「たしかに!」
スライムさんが、ぴょん、ととんだ。
「おまけつきぶって、おまけつきじゃない、おまけつきしょうばいだったんですね!」
スライムさんは、ぴょんぴょんとんだ。
「さらに! スライムさんは、おまけつき、やらなくてもいいんだよ!」
「たしかに!?」
スライムさんが、ななめに、ぴょん、ととんだ。
「なぜに!?」
「それは……。ここが、なんでも扱う、よろず屋だからだよ!」
「!!」
「すでに、みんなが目指してる先に、スライムさんはいるんだよ!」
「!!!」
「やっぱり、スライムさんは、すごかった……」
「ぼくは、すごいすらいむだった……」
スライムさんは、大きく息を吸って、はいた。
「ふふ。みんな、ぼくのうしろを、ついてきて、いいんだよ……?」
スライムさんが、目を閉じてほほえんだ。
「スライムさんが、大きく見える……」
「ぼくが、さいせんたん、なので……!」
「だから、今日はふつうに薬草売ってね」
「はい! なんなら、むりょうでくばってもいいです!」
「それはだめ」
「はい!」




