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321 スライムさんと勝負

「かちたい、ですね……」

 裏庭の、薬草が生えているところで、ぽつりとスライムさんは言った。


「勝ちたいって言った?」

「はい。しょうりしたいです」

 スライムさんは、私をまっすぐ見ていた。


「どうしたの?」

「ぼくだって、ありますよ。かちたいときが、ね」

 スライムさんは目を細くした。


「ふうん。じゃあ、なにか勝負する?」

「えいむさん」

 スライムさんが私を、きっ、と見た。


「どうしたの?」

「いま、ぼくにまけようとしましたね?」

「えっと……」

 スライムさんが、私をじっと見ている。


「負けようとしたというか、がんばって勝たなくてもいいかな、とは思ったというか……」

「やらせですか!」

「わざと負けるわけでは……」

「そんなことで、ぼくがよろこぶとおもいますか!?」

 スライムさんがぷるぷるしている。


「ぼくは、ほんとうの、かちに、うえてます!」

「そう、ごめんね。そんなにスライムさんが勝ちたいとは思わなくて」

「ゆるします!」

 スライムさんはすぐ言った。


「じゃあ、どんなしょうぶをしますか! えいむさんが、にがてなしょうぶは、だめですよ! わざとまけるのと、おなじです!」

「……じゃあ、スライムさんが苦手な勝負になっちゃわない?」

「いいですよ!」

「それだと、不公平だよね」

「いいんです! ふこうへいなしょうぶ、もえますよ!」

 スライムさんが、ぐおおお、と言った。


「私のことはいいの?」

「?」

 スライムさんが、ぐおおお、というのをやめた。


「私は、私が得意な勝負で勝ってもおもしろくないんだけど。スライムさんは、スライムさんが勝つことばっかり考えて、私の勝ちはどうでもいいの?」

「!?」

 スライムさんは、ぴくん、とゆれた。


 スライムさんはお店の中に入っていった。

 私も追いかける。

 二人でお茶を飲んだ。


「それは……、たしかに……、かんがえて、いませんでした……」

 スライムさんがやっと言った。


「ぼくは、ぼくのことばっかり……」

「いいんだよ、そんなもんだから」

「だめです! だったら、びょうどうな、しょうぶを、かんがえないと……」

「そもそも、私は別に勝負したくないっていうことも、考えると?」

「!!」

 スライムさんがぷるぷるふるえた。


「わわわ、わわわ、どうすればばば」

 ちょっといろんなことを言いすぎたかもしれない。


「もっと、そんなにむずかしく考えないで、かんたんな勝負を、いろいろしたらいいんじゃない?」

「たとえば、なんですか?」

「どっちが、背が高いか、比べるとか」

「そんなの、えいむさんがかつに、きまってますよ!」

「そんな感じで、いっぱい勝負したらいいんじゃない? 公平な勝負も、不公平な勝負も、いっぱい」

「!!」

「一回で終わりじゃなくてもいいでしょ?」

「たしかに! ぼくは、いっかいで、かつことばかり、かんがえていました!」

 スライムさんは、ぷるん、ぷるん、と体を振った。


「だから、どっちの体が透けられるか、という勝負なら」

「もう、ぼくがかちです!」

 むん、とスライムさんがふくらんだ。


「ね? なんでもいいでしょ?」

「はい! どっちの、たいじゅうが、おもいか、だったら」

「……」

 私の顔を見て、スライムさんが、ぴくっ、と動いた。


「どっちが、はしるのが、はやいかの、しょうぶをしましょう」

 ぴゅーっ、とスライムさんがお店から逃げだした。

「あ、待て!」

「はっはっはー!」

 どうやらスライムさんのほうが速そうだ。

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