319 スライムさんと高速移動
「わっ」
お店に入ると入り口に、青い、透きとおったものがあった。
それがカウンターの上まで続いている。
太さはスライムさんくらいというか……。
スライムさん?
青いものが、ぷるん、とゆれた。
「こんにちは!」
そして、急に青いものの一番前の部分に、シュン! とスライムさんの顔が現れた。
「わっ」
私はまたびっくりして声を出してしまった。
「スライムさん? なにこれ」
「ふふ。しんかです」
「進化?」
「こうすることで」
と言ったスライムさんの顔が、シュン! とカウンターの上まで移動した。
「あっというまです!」
「すごい」
私が走るよりずっと速い。
手を思い切り速く動かしたくらい、すぐ移動してしまった。
「どうですか!」
とスライムさんは、またシュン! と入り口にもどってきた。
「すごく速いよ!」
「こうして、ぼくを、はりめぐらせておくことで、かおの、こうそくいどうが、かのうになります」
スライムさんは、シュンシュン移動しながら言う。
「せかいの、どこへでも」
「すごい」
「やがて、せかいは、ぼくのものになるでしょう……」
「すごい!」
「ふふ、せかいむです!」
スライムさんは笑いながら移動した。
「どうやってのびたの?」
「がんばってのびました!」
精神的なものだった。
「そうなんだ。がんばったんだね」
「はい!」
スライムさんの顔は、シュン! とカウンターの上に移動して、そこで、むん、とちょっとふくらんだ。
「ふうん」
私はしゃがんで、スライムさんの体をちょっと、人さし指で押してみた。
すると、シュン! とスライムさんの体が一瞬で縮んで、カウンターの上でいつものスライムさんの大きさになった。
「わっ」
「なにしてるんですか、えいむさん!」
スライムさんが、いつものように、ぴょん、ととんでやってきた。
「え、あ、さわったらどうなるのかなって思って」
「こうそくいどうの、ぼくは、さわっては、いけません!」
「そうだったのか。ごめんね」
「ゆるしましょう!」
スライムさんは言うと、入り口から、ゆっくりのびはじめた。
にょき、にょき、とゆっくりだ。
カメが歩いているくらいだけれど、それでも思ったより速い。
にょき、にょき。
最後尾が、ちょっと、ふり、ふり、とおしりを振るみたいに動いている。
私はつい、靴の先で、つん、とさわってしまった。
シュン! と縮んで、スライムさんはカウンターの前で元通りになってしまった。
どうやら、顔のところでもどるらしい。
くるっとこっちを見るスライムさん。
「えいむさん!」
「あ、えっと」
「なんでさわったんですか!」
「えっと……」
私は言い訳を考えた。
「これは、スライムさんの、安全のためです」
「ぼくの、あんぜん?」
スライムさんが、かたむいた。
「もし、スライムさんが、世界中に広がったとします」
「はい」
「そんなとき。だれかが、うっかりさわったとしたら?」
「! ちぢみます!」
「スライムさんは、顔のところに、ちぢむよね」
「はい」
「もしスライムさんが、雪山を見に行きたくて、ちょうど、顔が頂上だったら」
「! ゆきやまの、ちょうじょうに、おきざり!」
スライムさんは、震え上がっていた。
「スライムさん、わかってもらえた?」
「はい!」
「だから決して、私は、ぴこぴこ動いてて、さわってみたくなったから、じゃないんだよ」
「はい! えいむさんは、なんとなくさわったんじゃなくて、ぼくを、しんぱいしただけです!」
スライムさんは、にっこり笑った。
それから、ちょいのび、しようとするスライムさんを何度かさわってしまい、私のついついさわり病は結局バレてしまった。




