315 スライムさんと年の瀬
「こんにちは」
「いらっしゃいま、せ!」
お店に入ると、スライムさんがやけに、せ、に力を入れて、カウンターにとんだ。
「せ、がどうかしたの?」
「ふふ。きづきました?」
スライムさんが、にやりとする。
「いまのじきは、せなか、らしいんですよ!」
「背中?」
私は体をひねって、自分の背中を見ようとした。
「見えなかった」
「ざんねんです!」
「時期が、背中なの?」
「そうです!」
スライムさんは、自信たっぷりに言った。
それから、ちょっとしぼんだ。
「でも、なんのせなかなのかが、わからないんですよねえ」
「そうなの?」
「はい! なんとかの、せ、っていうらしいんです」
「ふうん……。寒い時期が、ってこと?」
「そうです!」
スライムさんは言う。
「寒い時期……」
「なにか、おもいつきましたか?」
「空気が冷たくなってきてるときって、下がってる感じがするよね。温度とか」
「そうですね!」
「だから、なんていうか……。背中が下がってる生き物、とか?」
私が言うと、スライムさんが、ぷるっ、と震えた。
「なんですか!? それは!?」
「だから、昔の人が、寒くなっていってる時期に、背中が、へこむみたいに下がってる生き物を見て、最近は〇〇の背中みたいだねえ、とか、言ったとか」
「さがってるから、さむいじきを、れんそうさせる……!」
スライムさんが、ぶるっ、とふるえた。
「てんさいてき、はっそう……!」
「そこまでじゃないけど、ほら、馬とか、背中ってだいたい、ふくらんでるように見えるけど、へこんでる生き物がいたら、あんまりいないから目立つでしょ?」
「それです!」
スライムさんは断定した。
「わからないけどね」
「いいえわかります、けっていです!」
「背中がへこんでるいきものって、スライムさん知ってる?」
「しりません!」
「私も」
うーん、と私たちは考えた。
「でも、まちがいないです!」
「そうかなあ」
「そうです!」
スライムさんは自信満々だ。
「じゃあ名前がわからないなら、とりあえず、それの背、って呼ぶ?」
「めいあんです! わからないときは、それ!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
それから、着地して、ちょっと頭をへこませた。
「スライムさんがへこんだ」
「ふふ。ぼくは、それ、になりました!」
「じゃあ、ソレイムだね」
「! はい! しるくどそれいむです!」
「なにそれ?」
「わかりません!」
スライムさんは、ぴょーん、ととんで、くるくるまわって着地した。
「しるくどそれいむです!」
「だから、それは?」
「わかりません!」
スライムさん、いやソレイムさんと私は、それの背をのんびり過ごした。




