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31 スライムさん、暑い

 外に出るだけで汗がふきでるような日だった。


 よろず屋に到着するまでに、私のハンカチはもう、絞れるくらいの汗をふくんでいるくらい。


「こんにちは! 暑いね! ……スライムさん?」

 スライムさんの返事はなかった。

 もう一度呼びかけてからしばらく待っていても、やっぱりなんの返事もない。


 今日はいないのかな。

 思ってお店の裏に行こうとしたら、奥から小さな音が聞こえた。


「スライムさん?」


 その音のする方へと歩いていく。

 カウンターの横から、中に入って、ごみごみと物が置いてあるところへ……。


「おっと」

 なにかふんだ。

「ぎゅっ!」

 変な声。


 しゃがんで、なにか、があったあたりをよく見てみると。

「スライムさん?」


 私の親指の爪くらいの大きさしかないスライムさんがいた。

「どうしたの!」

「こうしていると、あつくないんです」

「はい?」


 スライムさんによると、暑くて暑くて、体から水分がどんどん抜けていって、気づくとこの大きさになっていたという。

 これは水分を補給しないとと思ったものの、暑くないことにも気づいたらしい。


「さいきょうの、あつさたいさくです!」

「でも、こんなに小さくなって、なんていうか、蒸発しないの?」

「じょうはつ?」

「ほら、水とか、そのままほうっておくと、だんだんなくなっちゃうでしょ?」

「ふふふ……。これをみてください!」


 スライムさんは言うと、ぴょん、と小さくはねた。

 すると、ぴょんぴょんぴょんぴょん、とあちこちにはねまわる。

 力を使わずに、どんどんはねかえっている。


「どうですか! すいぶんがなくなって、ごむのようになっているんですよ!」

 ぴょんぴょんぴょんぴょん!

 スライムさんは、よろず屋の床と壁と天井を、どんどんはねまわっている。

 これは、スライムさんの密度が高くなって、これまでとは別の性質を手に入れたということなのだろうか。


「あつくもないですし、うごきもはやくて、すごいでしょう!」

 ぴょんぴょんぴょんぴょん!


「すごいけど、ちょっと、一回止まってくれる?」

「はい!」

 ぴょんぴょんぴょんぴょん!


「スライムさん?」

「ちょっと、とまれないかもしれません」

 ぴょんぴょんぴょんぴょん!


「あ!」

 スライムさんが入り口の方にとんでしまった。

 そのまま外へ。


「スライムさん!」

 私は追いかけて外に出る。


 スライムさんの、わー、わー、という声だけが頼りで、それを追う。


 すると静かになった。


「スライムさん?」


 よろず屋の裏へと歩いていくと、スライムさんが、バケツの中から出てくるところだった。

 たぶん、バケツの中に残っていた水を吸って、元通りになったのだ。


「だいじょうぶ、スライムさん」

 かけよると、スライムさんはなんだかがっかりしているみたいだった。


「もとどおりになってしまいました……。あついです……」

「でも、このほうがいいかもしれないよ?」

「……えいむさんは、たにんのふこうをよろこぶんですか?」

「そうじゃなくて、暑くなくなるからって、あんなに小さくなっちゃったら、もしかしたら死んじゃうかもしれないよ」

「しぬ?」

「そうだよ。だって、スライムさんはほとんど水でできてるのに、水が抜けたら大変だよ!」


 私は、スライムさんがすっかり乾いてカラカラになってしまったことのことを思い出していた。


「私、スライムさんが危ないのやだ」

「そうですか?」

「うん!」

「だったら……」



「スライムさん、どうですか」

「うーん、すずしいですよー」

「よかったね」

 よろず屋にもどった私は、スライムさんをあおいでいた。


「ぼくがすずしくてよかったですねー」

「うん。あとで私のこともあおいでよね」

「あー」

 スライムさんは聞こえないふりをしていた。

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