30 スライムさんとお守り
よろず屋の前にスライムさんがいた。
自分の体と同じくらいの大きさの木箱を、頭の上に乗せてお店の中に進んでいくところだ。
重いのか、ゆっくり、ゆっくりと進んでいく。
「スライムさん?」
「ああ、えいむさん」
スライムさんが振り返って、箱が落ちてしまった。
「あわわわ」
「あ、ごめん」
私はかけ寄って箱を拾って、そのままお店のカウンターまで運んだ。
中身は入っているのだろうか、と思うほど、木箱の重さしか感じられなかった。
「えいむさんは、ちからもちですね! どこできたえたんですか?」
「どこでも鍛えてないよ。スライムさんより体が大きいだけだよ。これなに?」
「おみせのまえまで、はこんでもらった、とくべつなしょうひんです」
「ふうん。そうだ、今日は薬草くださいな。お母さんが料理中に指を切っちゃって」
私はカウンターに硬貨を置いた。
スライムさんが目を大きく開いた。
「ゆびを? いたそうですね……」
「うん」
「そうすると、まんいちのことをかんがえて、てんしのなみだ、のほうがいいかもしれませんね……」
スライムさんは考え込むようにした。
「天使の涙って?」
「かつて、いのちをおとしたゆうしゃを、いきかえらせるためにつかったという……」
「そんなのいいから、薬草でいいから!」
「そうですか? でも、ねんのためはだいじですよ?」
そう言いながらも、スライムさんは薬草を出してくれた。
「おだいじに」
「ありがとう」
「そうだ、これもどうですか?」
スライムさんは言って、さっきの木箱を開けた。
箱の中は、ふかふかしたものが敷き詰めてあって、中央には人形のようなものがあった。
といっても、頭のような丸い部分から、体のような棒がのびて、足のような二本の棒が生えているという、とてもかんたんなつくりのものだった。顔もない。
「これは?」
「おまもりです」
「お守り?」
「もってみてください」
スライムさんが言うので、私はその、人形のようなものを取り出した。
私の手にのせると、すこしはみ出るくらい大きさだった。
「それをもっていると、おまもりが、まもってくれます」
「はあ」
どこかの国で定着している風習だろうか。
「そのかおは、しんじてませんね? よろしい、かしたまえ」
スライムさんはちょっと偉そうに言う。
私がスライムさんに返すと、手のないスライムさんは体の後ろ側に、めり込ませるようにしてお守りを持つと、そのままカウンターから落ちた。
「あっ!」
どしん!
と顔からまっすぐ床に落ちたスライムさんだったが、平気そうに私に向き直った。
「どうですか!」
「どう、って、だいじょうぶ?」
「おまもりをみてください!」
見ると、スライムさんが持っていたお守りの頭が取れていて、ヒビが入っていた。
「ぼくのかおにかかったしょうげきが、おまもりに、うつったのです! なにかこまったことがあると、それをぜんぶ、ひきうけてくれるのです!」
「なるほど……」
たしかに、スライムさんが落ちたとき、お守りはスライムさんの後ろ側にあった。
お守りというよりは、身代わり、という気もするけど。
「ですから、このおまもりを、ぜひ!」
とすると、本当に、これはすごいお守りなのでは……。
「これはこわれてしまったので、またこんどになりますが、ぜひ!」
「でも、いいよ。高いんでしょう」
「おたかくないですよ! ただ、つくるひとがきまぐれなので、なかなかつくってくれないだけで。いっこ、30ごーるどです!」
「あ、そうなんだ」
いつになく、お手ごろだ。
「こんどまたつくってもらったら、ぜひ!」
「そっか。じゃあ、買ってみようかな」
「ぜひ!」
「うん。いつごろ?」
「うーんと、らいしゅうか、らいねんか、それくらいです!」
「え……。そんなにわからないの?」
「もしかしたら、さらいねんに」
それを買って、母にあげて、父にもあげて、とやっていたら、私の番になるのはいつになるのかな。




