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03 スライムさんがぺらり

 次の日、私はなんの用もなかったけれど、スライムさんが気になってよろず屋に出かけた。

 昨日はそのまま帰ったものの、あとから、もしかしてスライムさんが病気になったり、ひょっとして死んでしまったのではないかと不安になったのだ。


 入り口にはちゃんと、よろずや、という看板が出ていてほっとした。

 それから、どうしようかと思ったけれども、あいさつだけして帰ることにした。


 今日もお客さんはいない。

「こんにちは」

 返事がない。


「こんにちは」

 やっぱり返事がない。

 てっきりすぐ、カウンターの上に現れると思っていたので、どうしたらいいかわからなくなってしまった。


「スライムさん?」

 呼びかけてみるけれど、返事はない。

 小さな店内がいつもよりも広く感じた。

 

 誰もいないとわかると、ここにいてはいけない気がした。他人の家に勝手に上がりこんでいるようなもの、ではないだろうか。

 また戸を閉めておいてあげよう。


 そう思って出入り口に歩いていくと、靴に変なものがあたった。

 最初は、布切れかと思ったけれど、ちょっとちがう。

 手にとってみる。


 薄くて、ペラペラしていて、軽い。テーブルクロスよりはちょっと小さいか。青っぽい、透き通った色をしていた。まんなかあたりに、目のようなものと、口のようなものがある。

 スライムさんにちょっと似ていた。


 スライムさんが、自分でつくったものだろうか。自分に似せたものを売って、このお店を宣伝する。そういうものかもしれない。

 つるっとしていたので、私はうっかりそれを落とした。

 ひらりと空中で一回転して床に。


「ぎゅ」

 変な声がした。

 床に落ちた、それ、から聞こえたように思えた。


 私はしゃがんで、指で強く押してみる。

「ぎゅ」

「わ」

 私はびっくりして尻もちをついた。

 なんの声だろうか。


 そのとき、キラリ、と床でなにかが光を反射した。

 スライムさんに似た、それ、が落ちていたあたりだ。

 私は目をこらした。


 すると、そこにはきれいな茶色い石が落ちていた。表面がつるつるで、きれいに磨いた金属のようだった。お店の商品だろうか。

 カウンターの上に置いておこうと思ってそれをさわると、変な感触に思わず手を引いた。

 石が、砂のように崩れてしまったように感じられた。


 でも、石はそのまま変わらず、つるつるとした表面を見せていた。

 おかしいな、と思って手を見ると、私は驚いた。


 指先がカサカサにかわいていた。人さし指、中指、親指の一部が、古い紙のようにカサカサになっている。そして、砂がついているのかと思って指先をこすり合わせると、指がサラサラと砂のようにくずれた。三つの指の、第一関節部分が削れてしまった。まったく痛みはない。

 私はとてもびっくりして、すぐには動けなかった。

 

 それから私は、スライムさんに似た、それ、を見た。


 もしかして。


 私は店を出て、裏にまわった。水場と桶があったので、水を入れて店内に持っていった。指が短くなっていたのでちょっと難しかった。


 そして、スライムさんに似た、それ、を桶の中に入れてみた。

 しばらく、それ、は水の中でゆらゆらしながら、ブクブクと泡を出していたけれど、だんだんふくらんできた。一度ふくらみ始めるとすぐ大きくなっていく。

 

 じゃばっ、と水から、丸いかたまりが飛び出した。


 私の前に着地したのは、スライムさんだ。


 スライムさんはちょっとぼんやりしてから、私を見た。

「あれ、まりあさん、どうしたんですか」

「エイムです。スライムさんが乾いてたみたいなので、水に入れてみました」

 

 指先がくずれてしまったのは、乾燥が原因ではないか、と考えた。そうすると、ペラペラになってしまったものは、本物のスライムさんなのではないかという気がしてきたのだ。


 スライムさんはすこしぼうっとして、それから気づいたのか、目をとても大きく開いた。

「はっ! そうです! かわいてました!」

「その石のせい?」

 私が指した茶色い石を見て、スライムさんは飛び退いてカウンターの上に乗った。

「わ、わ、きけんですよ! それはかわきのいしといって、いきものがさわると、どんどんかわいてしまうのです! ぜったいにさわらないでください!」

「スライムさんがさわったんじゃないですか?」

「ぼくはさわりませんよ! さわったら、ぺらぺらのかみのようになってしまいますから!」


 やっぱりさわったみたいだ。


「あれ、ぼくはさわりましたよね? えいむさんがみずにいれてくれたんですね! ありがとうございます!」

「私もさわっちゃったけど」

 私は短くなった指を見せた。


「うわわうわわ、もうしわけありません! こここれをどうぞ!」

 スライムさんはカウンターに飛びこんで、薬草を出してくれた。

 よく見る薬草よりも、緑の色が濃い。

「色が濃いね」

「これでゆびをこすってみてください!」


 私は、スライムさんにわたされた薬草を指にこすりつけた。

「わ」

 するとあっという間に、私の指が元通りになっていた。


「すごい! どうなってるの」

「すごいでしょう」

 スライムさんが満足そうにしていた。


「これは、あの、すごいやくそうで、すごいのです」

「なんていう名前?」

「それは、その、すごいやくそうですので、ひみつです」

「忘れちゃったの?」

「どうでしょうねー」

 スライムさんは、口笛を吹いてとぼけた顔をした。魔物にもそういう文化があるらしい。


「では、このすごいやくそうをどうぞ」

「え?」

「これがあれば、いえをかうこともできる、ねうちのあるやくそうですよ!」

「そんなのわるいよ。そんなにすごいもの、かんたんにあげたらだめだよ」

「いいんですよ。ぼくはいのちをすくわれたので!」

「でも……、そんなのなくしちゃったら怖いし」

「そうですか。では、ぼくがあずかっておきましょう!」

 スライムさんは何度もうなずくように、体を折り曲げた。


「では、きょうのおかいものをただにします!」

「今日はなにも買うものないよ」

「ないのにきたんですか?」

 スライムさんが体をかしげる。

「うん。迷惑だった?」

「とんでもない! いつでもきてください!」

「ありがとう。でも、ちゃんと整理整頓しておかないとだめだよ」

「むぐ」

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