299 スライムさんと新社長
「あれ、今日は薬草ないんだね」
私がカウンターを見てふと言うと、スライムさんが、びくり、とふるえた。
「え? あ……」
スライムさんは、ぷるぷるふるえた。
「裏から持ってくるの、忘れちゃった?」
「……このせきにんは、おもくかんがえております……」
「スライムさん?」
「ぼくは、しゃちょうを、じにんします!」
スライムさんは奥にひっこんだ。
出てきた。
「どうも、しゃちょうすらいむ、しゃちょいむです」
「しゃちょイム」
ほほう。
「しゃちょうって?」
「このかいしゃで、いちばん、えらいひとです!」
スライムさんは、むん、とふくらんだ。
「かいしゃって?」
「はたらくひとの、あつまりです! でも、ひとりでもいいんです! ぼくは、よろずやのしゃちょうです!」
「そうなんだね」
「そこではっぴょうがあります」
でででで、でででで、とスライムさんが左右に動いた。
「じゃん!」
「うん?」
「しんしゃちょうは、えいむさんです!」
スライムさんは、くちでぱちぱちぱち、と言った。
「私が社長?」
「はい!」
「どういうこと?」
「ぼくはこんかい、うらにわから、やくそうをもってくるのをわすれる、というしっぱいをしてしまいました」
「うん」
「そのせきにんをとりまして、しゃちょうを、じにんします!」
「そんな!? あやまればいいのでは!?」
「まあまあ」
スライムさんは笑った。
「そんな、こまかいはなしが、つうじるあいてじゃ、ないんですから」
「通じるでしょ!」
「でも、しんしゃちょうにすると、いいことがあります」
「どんな?」
「ちょっとちかくへ」
スライムさんがカウンターにのった。
私は、スライムさんの顔に耳を近づける。
「……おおきなこえでは、いえないんですが」
「うん」
「しゃちょうをこうたいすると、いいかんじに、なるらしいです!」
スライムさんは、小声で大きめの声で、言った。
「いい感じに」
「はい! しゃちょうがかわると、ほかのぶぶんが、かわらなくても、なにか、かわったかんじになるからです!」
「それはべんりだね」
「はい! そして、しんしゃちょうは、がいぶのにんげんにすると、いいんです!」
「どうして?」
「ないぶだったら、またやくそうをわすれるかもしれない……。でも、がいぶなら、あたらしいかぜが、はいってきます!」
「なるほど。でもどうして私?」
「ふふ」
スライムさんは意味深に笑うと、カウンターをちょこちょこ進んだ。
「ぼくと、えいむさんの、きょうつうてんは、なんだとおもいますか?」
「うーん。美少女!」
「ちがいます!」
私はスライムさんの口をひっぱった。
「うわわわ」
「じゃあ、いつも薬草を食べるとか?」
「ふふ。もっと、きほんてきで、こんぽんてきな、ことです!」
「うーん。え、まさか! ……どっちも、社長イムだから?」
「それです!」
スライムさんは、ぴょーん、とカウンターからとびおりた。
「では、しんしゃちょういむさん、このおみせを、おねがいします!」
「え? でも、私によろず屋、できるかなあ」
「だいじょうぶです! ぼくが、やります!」
「ええ? 私が社長なんでしょ?」
「じっさいは、てんちょうをぼくがやって、なにもかわらない。それでもいいんです!」
「そうなの?」
「はい!」
それでいいなら、まあ。
「さいあく、なにかあったら、またぼくがしゃちょうになります!」
「そんなことも?」
「いいんです!」
「わかった」
社長というのは、自由なものらしい。
「じゃあ、さっそく薬草とりにいこうか」
「はい、しゃちょう!」
スライムさんは、きりっ、とした。




