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296 スライムさんと猫の手も借りたい

 ぶらぶらと歩いていたら、近づいてくる。

 なにか、青くて透き通ったものが近づいてくる!


「えいむさん!」

 スライムさんだ。


「とう!」

 スライムさんが、私の脚に軽くぶつかった。

「おっと、こんにちは。今日は、まだよろず屋に行かないんだけど」

「じゃあ、どうしてこんなところをあるいていたんですか?」

「散歩」

「なるほど!」

「スライムさんは?」

「えいむさん、いそがしいですか?」

 スライムさんは言った。


「いそがしくはないけど」

「そうですか……」

 スライムさんは、すこししぼんだ。


「いそがしい……。もしかしたら、ちょっと、いそがしいかもしれない」

 私は思い直した。


「いそがしいですか!?」

「具体的に、なにが、どうっていうわけじゃないんだけど」

「いいですよ! そういうときも、あります!」

 スライムさんの体に張りがもどった。


「じゃあ、すらいむのても、かりたいですね!?」

「スライムの手?」

「えいむさんはしりませんか? いそがしいとき、ねこのても、かりたいという、ことばを」

「聞いたことがあるような」

「だったら、すらいむのてをかりても、いいですよね?」

 スライムさんは、ちょっと体を傾けた。


「うーん。スライムの、手……」

「えいむさん。あなたはいま、すらいむに、ては、ないんじゃないか。そうおもっていますね!?」

「そのとおりだよスライムさん」

「じゃあききますけど。ねこに、ては、あるんですか?」

「あっ」


 言われてみると、手、ではなく足という気がする。脚?

「つまり、てが、あるかどうかはかんけいない……」

「……! やるね!」

「はい!」

 スライムさんは、自信満々に言った。


「これからは、すらいむのてもかりたい! こういうことばを、ていちゃくさせていきます!」

「おお!」

「すらいむ、うごきます!」

 スライムさんは、にっ、と笑った。


「じゃあ、私も、お手伝いしてもらおうかなあ」

「え?」

「なに?」

「おてつだい……?」

 スライムさんは、ふしぎそうにしている。


「なぜ……?」

「なぜって、いそがしい人は、手伝ってもらいたいから、猫の手も借りたいんじゃないの?」

 私は首をかしげてきいた。

「……ほほう」

 スライムさんは、ぴこ、ぴこ、とゆっくり私のまわりを一周した。


「! そうだ! このはなしは、なかったことに、しましょうか!?」

「なにを手伝ってもらおうかなあ」

「えいむさん……!? きこえて、いない……!? いしきが……!?」

「ええとね」

「! はっ!?」

 そのとき、スライムさんの頭に、電撃が走った!!


「このなんもん、かいけつしてみせましょう……」

「スライムさん?」

 スライムさんの目が、落ち着いている……。


「えいむさんは、ねこのてに、なにか、きたいしてますか?」

「猫の手? まあ、あんまり期待してないよね」

「それです!」

 スライムさんが、ちょっと縦長になった。


「ねのこてをかりたいというのは、きたいしていない……。やくにたつかどうかは、どうでもいい……! つまり、すらいむのては、てつだいをしません!」

「ええ!?」

「そういうものです! なので、ぼくも、てつだいません!」

 スライムさんは、にっ、と笑った。


「そう……」

「はい! あぶなかった……」

 ふう、とスライムさんは息をついた。


「私、いっしょに散歩するのを手伝ってもらおうと思ったんだけどなあ」

「……おや?」

「じゃあ、ひとりで行くね」

 私が歩きだすと、スライムさんがついてきた。


「スライムさん?」

「おや? たまたま、いくさきが、いっしょのようですね?」

「そうだね」

「はい!」

 私たちは、しばらくそのあたりを散歩した。

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