289 ドラゴンスライムさん
「きょうは、ちょっとおはなしがあります。きいてください。ありがとうございます」
私はなんだかわからないうちに、カウンターの上にのっているスライムさんに対して、その前に置かれている椅子に座った。
「どらごん、ってかっこいいですよね?」
「うわさには、聞いてる」
「どんないんしょうですか?」
「ええと、空を飛んで、爪が鋭くて、牙も鋭くて、火を吐く、トカゲのすごいやつ」
「いいですね! そのとおりです!」
スライムさんは言った。
「そういうわけで、ぼくも、どらごんになりたいんですけど、どうしたらなれますか?」
「スライムさんがドラゴンに?」
「そうです!」
「ははあ……。私にも、考えがないわけじゃないけど」
「なんですと!?」
スライムさんは、目を丸くした。
「そんなことを、すでに……?」
「ふふ。おどろいたかね、スライムくん」
「はい! でも、どうやって?」
「もしかして、スライムくんは、まだ具体的には考えていなかったのかな?」
「ええ……。よのなかのひとが、おかねもちになりたいとか、そのていどのものでして……。おはずかしい……」
スライムさんは恐縮した。
「スライムくん。気にしなくていい。世の中、そういうものだ」
「ありがとうございます! それで、どういうかんがえですか?」
「私も、まだ、どうなるかはわからないのだが。ドラゴンの、なにがドラゴンなのかを考えれば、スライムくんにその要素をくっつけるだけで、ドラゴンになれるんじゃないかという……」
スライムさんは、ぴたりと止まった。
「……」
「やっぱり、無理だろうか……」
「天才ですよ!」
「え?」
「さっそく、かんがえましょう! ドラゴンの、どこが、どらごんなのか!」
「うん!」
「うーん、むずかしいね」
スライムさんの口に、牙のような短い金属の棒をつけてみたり、羽のような布をはりつけてみたりしたけれど。
あと、なんだかわからないウロコを一枚置いてみたけれど、ドラゴンの感じはあまり出ていないように思える。
「そうですね。やっぱり、ぼくに、どらごんは、むり……」
「……」
「えいむさんも、もう、くちをきくげんきもない……」
「あるよ」
「ありました!」
「……私は、解決するための考えがある。でも、それは、悪魔にたましいを売ることになるかもしれない」
「たましいを!」
スライムさんがちょっとふるえたので、ウロコが落ちた。
「いったい……!?」
「ドラゴンって、見たことある?」
「じっさいには、ないです」
「私もない。たぶん、町の人もないと思う」
「それが……?」
「ということは、これが、ドラゴンスライムだとしても、誰も、わからない……」
「それは!!」
「そう。言ったもん勝ち!」
「いったもんがち!」
これはおそろしい考えだった。
どうせわからないなら、なにをやってもいいだろうと。
そういう考えだ。
「でも、どらごんに、みつかったら……?」
「それはそれで、本当のドラゴンがわかるから、助かる!」
「たすかる!」
スライムさんは、ぷるん、とふるえた。
「そのかんがえは、なかったです!!」
「私も、自分の考えにふるえているよ」
「じゃあ、どらごんには、あやまっておけば……?」
「たぶん、許してもらえる」
「かんぺきです!」
私たちは、スライムドラゴンの作成に打ち込んだ。
薬草を食べるのが好き、という裏設定を入れたりもした。
「どうせ、ドラゴンにはわからないしね」
「はい! どうせ、わかりませんし!」




