281 スライムさんと爆破ボタン
「これ、なに?」
よろず屋の、カウンターの端のほうに小箱が置いてあった。私の手のひらにのるくらいの大きさだ。
箱の上部、中央に円形の段差がある。
「ほごほご」
「待ちましょう」
私は、口いっぱいに薬草をつめこんでいるスライムさんがもぐもぐするのを、見守った。
「ふう。おまたせしました!」
「ほごご? ほごごご?」
「えいむさんが、やくそうで、くちがいっぱいに!」
今度は私の口が薬草でいっぱいになっていた。
私がもぐもぐするのを、スライムさんは見守っていてくれた。
「おまたせ!」
「はい!」
「それで、これはなに?」
「これは、ばくはぼたんです!」
「爆破ボタン?」
「はい!」
「あぶないよ!」
「それが、そうとは、かぎらないのです!」
「どういうこと?」
「ふふ」
スライムさんは、また薬草に近づいた。
「口の中を薬草でいっぱいにする気?」
「しそうでしない、でもしそうなすらいむです!」
「それを止めはしないけど、その前に、これがなんなのか教えてくれる?」
「ばくはぼたんです!」
「聞きまちがいではない……」
「はい!」
「でも、そうとはかぎらないって?」
「どこが、ばくはつするかは、わかりません!」
「ええ?」
スライムさんによると、爆発することはまちがいないのだけれど、どこで起きるのか、わからないのだという。
「それは、どのくらいの範囲の話?」
「せかいです」
「大きく出たね」
「せかいのどこかで、ばくはつがおきるので、あんぜんです」
「スライムさん。それはおかしい」
「!?」
「スライムさんは、自分が爆発しなければそれでいいっていうの?」
「!!」
スライムさんは、ぷにゅ、とつぶれた。
「ぼくは、じぶんさえよければいい、そうおもっている、すらいむやろうでした」
「わかってくれた。わかってくれた?」
スライム野郎?
「こんなものを、きがるにおしたら、いけませんよね」
「気軽でも、気重でもだめだよ」
「わかりました。じゃあ、さいごにいっかいだけいいですか?」
「だめだよ」
「わかってます!」
「なんでそんなこと言ったの?」
「……いまのは、えいむさんをためしました!」
「!?」
「えいむさんが、さいごだったらいいよ。そんなことを、いうひとだったら、ぼくは、ゆるさないところでした! でも、えいむさんは、えいむさんでした! よかった!」
「そっか」
「はい!」
「じゃあ、これはどうするの?」
私は、爆発ボタンの箱を横から持った。
「あっ」
スライムさんが言ったとき、私の体がすこし浮いた。
下から押されるように、ちょっとだけ。せいぜい、手のひらの厚みくらいだろうか。
「えいむさんの、したで、ばくはつしました!」
「ええっ!?」
「ぼたんは、よこにあります!」
「ええっ!?」
私は急いで爆破ボタンを置いた。
「上の、ここじゃないの!?」
「それは、ささやかな、かざりです!」
「迷惑な!」
押した感触もなかった。
私は床を見る。
目立った傷はない。
「いまのが、爆発?」
「はい」
「小さくてよかったよ」
「おおきさも、いろいろな、しゅるいがあります!」
「絶対あぶないから、なんとかしないと」
私は、スライムさんに凍らせる魔法石を出してもらって、爆発ボタンを完全に凍らせてから、ふかふかの箱に入れて、しっかりと封印した。
「絶対に開けないようにしないとね」
「はい! ぜったいに!」
「絶対にね」
「はい! ぜったいに! えいむさんも、きをつけてくださいね!」
「私にも責任が!?」
絶対に開けちゃだめだぞ。
絶対だぞ!?




