27 スライムさんとコイン当て
「こんにちは」
よろず屋に入っていくと、もうスライムさんは私を見つけていた。
でもいつもとちょっとちがっていた。
「いらっしゃいませ……」
スライムさんは静かに言った。
「今日は薬草ください」
「どうぞ……。いくつですか……」
そう言って、変な笑顔をうかべる。
「二つ、おねがいします」
私は14ゴールドをカウンターに置いた。
「そのきんがくで、いいんですか……?」
「あれ? ひとつ7ゴールドじゃなかったっけ?」
「あってますよ……。でも、むりょうで、てにいれたくないですか……?」
変な笑顔。
「有料でいいよ」
「え……。でも……、むりょうがいいでしょう……?」
「有料でいいよ」
私が言うと、スライムさんはいつもの顔にもどった。
「むりょうがいいっていってください!」
「ええ?」
「むりょうがいい、それにおかねがほしいっていってください!」
「……無料がいいな、それにお金がほしいな」
「ふっふっふ。えいむさんも、わるいひとですねえ……」
スライムさんが変な笑い方にもどった。
なにを言っているんだろう。
「これをどうぞ……」
スライムさんが出してきたのは、コインだった。
「これは?」
「うらかおもてか、あてっこをしましょう……」
スライムさんは言った。
「あてられたら、えいむさんの、やくそうのだいきんは、なしにします……。でも、はずれたら、2ばい、はらってください……。いちかばちかの、かけごとですよ……」
スライムさんは変な笑い方をした。
「え、やだよ」
「……ど、どうしてですか?」
「だって倍も払えないもん。それに、ちゃんとお金を払いに来たんだよ」
「でも、せっかく、むりょうになるかもしれないのに……」
「払うよ」
「うーん……」
スライムさんは、だんだん平らになっていった。
「わかりました。だったら、あたったらむりょう、はずれてもそのままでいいです……」
「それじゃスライムさんが損するだけでしょ」
「そうです……」
「だめだよ」
スライムさんは、ちょっとスキを見せるといいかげんな経営をしようとする。
「じゃあわかった。1ゴールドで遊ぼう。それならいい?」
「1ごーるどをかけて、うらか、おもてか、あてるわけですか……」
「うん」
「しょうがない、わかりました……。えいむさんとは、しらないなかではありませんので……」
「どうも」
なんだか私がお願いしたみたいになっている。
「では」
スライムさんは、どこからか出したメガネをかけた。
レンズが黒い。
「それ見えるの?」
「はい。そのみちのひとに、みえるでしょう……?」
スライムさんは自慢げにしていた。
「さて、では」
スライムさんは、コインをカウンターに落とす。
音を立ててはねたコインはカウンターの上でくるくる回った。
そのとき、スライムさんが横にあった布を、コインの上からかける。
「さあおねえちゃん、うらかな? おもてかな?」
スライムさんが、さっきまでとはまたちょっとちがう感じの、変な笑い方をする。
「じゃあ、表」
「ほんとうにいいのかい?」
「いいよ」
「そうかい……。じゃあ、これだ!」
スライムさんは布をくわえて、ぱっ、とめくった。
コインは表だった。
「やるじゃないかおねえちゃん。ふふ。どうだい、もうひとしょうぶ、していかないかい?」
「もういい」
「ん? どうだい、もうひとしょうぶ、していかないかい?」
「もういいって」
「どうだい、もうひとしょうぶ、していかないかい?」
スライムさんは悲しそうに言った。
「……はい」
スライムさんはもう一回コインを回転させ、布をかけた。
「さあさあ、うらかな? おもてかな?」
「じゃあ裏」
「ふっふっふ。ほんとうに」
「いいよ」
「そうかい……。はいっ!」
スライムさんがコインをめくる。
裏だった。
「くー、つよいね、おねえちゃん!」
「はあ」
「どうだい、もうひとしょうぶ、していかないかい?」
「もういいよ」
「どうだい、もうひとしょうぶ」
「わかりました!」
「……じゃあ、表」
スライムさんが布をめくる。
表だった。
「や、や、やるじゃないか……」
スライムさんはフラフラしていた。
もう私は二十回も勝ち続けていた。
「もうやめようよ」
「ど、どうだい……、もうひとしょうぶ……、していかないかい……?」
スライムさんは息も絶え絶えだった。
「じゃあ、表」
「いくよ……」
また表だった。
もう十回連続で表が出ている。
こういう勝負だから、わざと負けようにも負けられない。
「あの、一回、うちに薬草置いてきたいんだけど」
「おねえちゃん、かちにげかい? そいつはよくねえなあ……」
スライムさんのこの口調は、いったい誰なんだろう。
「あとでまた来るから」
「おねえちゃん、かちにげかい? そいつは……」
スライムさんが私をじっと見てくる。
「もう、わかったわかった」
また当たった。
それでもスライムさんは、まだまだやる気まんまんだった。
私は、もうかってしまった20ゴールドを、どうやってうまく返すか、そればかり考えていた。




