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268 スライムさんとウインク



「えいむさんって、たまに、ぱちっ、てしますよね」

 お店の外で、強い風が吹いたあとにスライムさんが言った。


「え?」

「めを、ぱちっ」

 スライムさんは目を閉じて、開いた。


「まばたき?」

 私も目を閉じて開いた。


「かたほうだけのやつです!」

「こう?」

 私は、右目だけ閉じた。


「それです! それ、なんですか?」

「なにっていうか……。私の場合は、目にゴミが入った気がするときに、やってるんだけど。あ、でも、かっこつけたり、合図を送ったりするときに使うときもあるみたい」

「え……?」

 スライムさんは目をぱちぱちさせた。


「それ……。ぜんぜん、つかいみちが、ちがいますよね……?」

「ちがうね」

「そんなことを、にんげんは、みわけられるんですか……?」

「急にスライム感、出してきたね」

「すらいむですのでね」

 スライムさんは、にやりとした。


「でも、わからないよ。大体で、判断するしかない」

「だいたいで?」

「たとえば、スライムさんが、私に薬草をおまけして、片目を閉じたとする」

「はい」

「とすると、これはおまけですよ、という、ちょっとしたあいさつだよね」

「たしかに!」


「あとは、かっこいい男の人が、女の人にやった場合は」

「きみのひとみにかんぱい、ですか?」

「……かもしれない」

「りかいしました!」

 スライムさんは、目を両方閉じて、開いた。


「でも、できませんねえ……。ぼくも、ひとみにかんぱい、したいのに」

「したいの? でも私も、左目だと、なんか変になるよ」

 私は左目でやってみる。

 ほっぺたも一緒に上がったような感覚だった。


「そうですね! くちが、あがってます!」

「ええ? 口? ほっぺたじゃなくて?」

「はい!」

 もう一回やってみる。

 近くに飾ってある盾の金属部分で見てみると、たしかに唇のはしが上がっていた。


「本当だ……」

「まぶたに、すいよせられてるんですかね?」

「まぶたに?」

「これをつづけていくと、いずれ、くちが、めに、すいこまれてしまうかもしれませんね」

 スライムさんは重々しく言った。


「じゃあ、左目でやるのはやめたほうがいいかな?」

「そうですね。だいじをとって」

「わかった」

 私はうなずいた。


 右目でやってみる。


「きれいに、きまりました!」

「ありがとう」

「どういたしまして!」

「じゃあ……。スライムさんもやりたいよね?」

「はい!」

「私が、スライムさんの片目を押さえてみる?」

「ちからづくですか!?」

「軽くやるよ」


 私は、スライムさんの左目の、上下をおさえた。


「右目だけ、閉じてみて?」

「はい!」


 スライムさんが右目を閉じる……。


「……ん?」

「できてますか!」

「えっと……」

「どうですか!」

「できてるけど……」

 私は手をはなした。


 スライムさんの目がふつうになった。


「なにかありましたか?」

「ええとね……。あ、ちょっとやってみてよ」

「いいですよ!」

 スライムさんは、はっ、と片目を閉じた。


「できてますか!?」

「ひとりでも、できてる。できてるけど……」

「やりました! ……エイムさんは、あまりうれしそうじゃないですね?」

 スライムさんは、大きく開いた目で私を見ていた。


「ぼくが、えいむさんにおいついたことで、あせりを、かんじている……?」

 私は近くにあった、金属の板をスライムさんの前に持っていった。


「おっと!?」

 スライムさんは自分の顔を見て、両目を大きく開いた。


「これは!?」

「スライムさんは、片目を閉じると、もう片方を、倍くらいに開いてるんだよね」

 まるで閉じたぶんを取り返そうとしているみたいに大きく開いていた。


「えい! えい! だめです! ひらかないようには、できません!」

 スライムさんは、あわわと左右を見た。


 私は左目を閉じる。

「どう?」

「くちが、まがってます!」

「ふふ」

「よゆうの、えみ!? ……まけてられませんよ!」 

 スライムさんは、右目を閉じた。

 左目が大きく開く。


「どうだ! どうだ!」

「くちがまがってますよ!」

「スライムさんも、左目が大きすぎるよ!」

 私たちは、ちょっと変な片目閉じ合戦をした。

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