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247 スライムさんと番号

「エイムさんは、ひまなとき、なにしてますか?」

 スライムさんが、カウンターでちょっとぷるぷるしながら言った。


「ひまなとき?」

「はい! やることがなくて、ほかのときなら、ぜんぜんやらないようなこと、しますか?」

「する」

「! たとえば?」

 スライムさんのぷるぷるが止まった。


「ええと、右手の爪を、左手の爪にぴったり合わせてみる、とか」

「なんですか?」

 スライムさんが、ずずい、とせまってきた。


「手があるでしょ?」

「ぼくは、ないです!」

「私はある。この、爪を」

 私は、手を半分にぎるようにして、爪をスライムさんに見せた。

 手首を返して、爪同士を合わせるようにして、くっつける。


「合わせる」

「あいました!」

「うん」

「……できましたけど、あんまり、ひまつぶしには、なりませんね」

 スライムさんは、残念そうに言った。


「それが、これは、ここからが本番なんだよ」

「なんですか?」

「爪って、平らじゃなくて、ちょっと曲がってるでしょう?」

 私は合わせるのをやめて、手をスライムさんに近づけた。

 爪の表面は、ちょっとした曲線を描いている。


「! たしかに!」

「だから、まっすぐ合わせるより、ちょっとずらしたほうが、爪同士のすき間がなくなるような気がするとか」

「たしかに!」

「親指の爪は、親指同士を合わせるのがいいのか、それとも、他の指と混ぜる感じにしたほうがいいのか、とか」

「奥が深い!」

「でも、ふだんは、やらないでしょう?」

「やりませんね!」


 スライムさんは、おだやかな表情になった。


「ぼくの、まけです……」

「スライムさん?」

「ぼくは、かずをかぞえる。それくらいしか、していませんでした……。えいむさんの、おくの、ふかさに、かんどうです……」

「感動することじゃないよ。恥ずかしいからやめて」

「ぼくなんて、かずを、かぞえるだけでした……」


 スライムさんが、すこしつぶれた。


「数えるだけだっていいでしょ。ひまつぶしなんだから」

「しかも、かぞえるのを、しっぱいしました……」

「失敗?」

「きのうの、ことです……。たしか、247を、いいわすれました……」

「どういうこと?」

「かぞえていたら、ふちゅういで、とばしてしまったんです……」

「245、246、248、249、って数えちゃったってこと?」

「そうです……」

「めずらしいことするね」

「ぼくは、ひまつぶしすら、できないんです……」


 スライムさんは、ますますつぶれた。

 もう、床と一体化したいんじゃないかというように思える。


「むしろ、それをちゃんと、覚えてたほうがすごい気がするけど」

「いいんですよ、なぐさめなくて……」

 スライムさんは、ふっ、と笑った。


「じゃあ、いま、言えばいいんじゃない?」

 私が言うと、スライムさんは私を見た。


「いま、いう……?」

「そう。言い忘れたんだから」

「でもぼくは、247ばんを、わすれてしまったんですよ?」

「スライムさんが勝手に数えてただけなんでしょう?」

「そうですけど」

「じゃあ、いいんじゃない? 誰かに文句を言われたわけじゃないんでしょう?」

「でも、247を、とばして、しばらくたってしまいました……。いまさら……」

「だいじょうぶ、誰も気にしてないよ!」

「そうですか?」

「うん。私も一緒に言うから」

「えいむさんも?」

「うん」

「わかりました! いま、247、といっておきます!」

「うん」


 せーの。


『247!』


「やりました!」

 スライムさんが、元通りの丸さをとりもどした。

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