251 スライムさんとければけるほど
スライムさんとお店で薬草を食べているとき、ふと母に言われたことを思い出した。
「そういえば、ゆっくり食べれば食べるほど、満腹になるんだって」
「……?」
スライムさんは、ふしぎそうに私を見た。
「どういうことですか?」
「ん? 早く食べるとお腹がいっぱいになりにくいから、ゆっくり食べると、自分がどれくらい満腹かわかるってことだよ」
「……はい」
スライムさんは、どこか、なにかを納得していない顔をしていた。
「なにか変だった?」
スライムさんは、ちがうのかもしれない。
「ゆっくりたべればたべるほど? へんじゃないですか?」
「うん?」
「たべるのが、ゆっくりならゆっくりなほど、じゃないですか?」
「うん?」
私は、スライムさんがなにを言っているのか考えた。
言葉の順番の話だ。
「そっか。ゆっくり食べれば食べるほどだと、いっぱい食べてるみたいで、食べるのがゆっくりならゆっくりなほど、だと、ゆっくり食べる話をしてる。そういうことだよね?」
「そうです!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
「たべればたべるほどは、いっぱいたべてます!」
私はすこし考える。
「えいむさん? どうかしましたか?」
「スライムさん、すごいね」
「はい!」
スライムさんは自信満々の顔をした。
「私、なんだか、そういうまちがいを、たくさんしてきたような気がする」
「まちがいを?」
「うん。速く走れば走るほど、とか」
「いっぱい、はしってますね!」
「うん。だけど、本当は、走るのが速ければ速いほど、だった気がする。速さについての話だった気がするから」
「いっぱい、きがしてますね!」
「気がすれば気がするほど?」
「それは……、あってます!」
スライムさんが、くるっと横に一回転した。
「朝、早く起きれば起きるほどとか」
「たくさんおきてますね!」
「うん。ペンキで、壁を、黄色にぬればぬるほど、とか」
「それは、あってますか?」
「合ってそう」
私はうなずいた。
「合っていることもあるから、むずかしいね」
「ぜんぶまちがっていてくれたら、なおせばいいのに。あっていることもある。よいことにおもえて、それが、あしをひっぱる。むずかしいですね」
私たちは目を合わせ、心を合わせた。
「これは、なにかと、いっしょですね……!!」
「うん……!!」
遠くを見た。
「やくそうでも、たべましょうか……」
「そうだね……」
「やくそうを、たくさん、たべたらたべたほど、かち。そういうしょうぶでも、しましょうか……」
「たくさん食べたら食べたほど。食べるのがたくさんならたくさんなほど。おや?」
私は、はっとした。
「これは、言葉を入れかえても意味が同じ?」
「! どっちも、たくさんたべることについての、はなしになってます!」
スライムさんも、はっとした。
「ければけるほど、奥が深いね」
「ですね!」




