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25 スライムさんと裏山

「あー、どこかへでかけたいですねー」

 カウンターの上で、平べったくなっているスライムさんが、そんなことを言っているのが外から見えた。


「こんにちは」

 私はお店に入っていった。

「いらっしゃいませー」

 スライムさんは平べったいまま、だらだらしていた。


「お客さんが来たときにそんな態度だと、買い物してくれないよ」

「じゃあ、ぎゃくに、うりません!」

「どういうこと!」


 私はカウンターに近づいて、スライムさんをよく見た。

 だらだらしている。


「あー、どこかへでかけたいですねー」

「山登り?」

「やまは、もういいです」


 結局、山登りは計画しかしてなかったけど。


「ぼくは、やまと、こどくとむきあっていくには、まだみじゅくすぎました……」

「なんの話?」

「やまは、のぼりたいというきもちと、いのちをまもるというきもち。そのふたつとたたかいながら、いどむものなのです……」

「よくわからないけど、すごい山に行かなければいいんじゃないの?」

「そんなことでは、せいちょうがありません……」

「裏山じゃだめってこと?」


 私が言うと、平べったいスライムさんが、やや丸みを取りもどした。

「うらやま……?」

「うん。この裏に、ちょっと行ったら山があるでしょ? 行ったことない?」

「しりませんね」

「私も何回か登ったことあるよ」


 六歳のころ、両親と登った。

 登ったというより、散歩の延長みたいなものだったけれども。

 だから全然つらさはなかった。


「えいむさんは、やまとたたかったことが、ある……?」

「山は戦うものじゃないよ」

「! たたかうものではない……! ……えいむさん」

「なに?」

「ひじょうに、べんきょうになりました。やまは、てきであり、みかたでもあるのですね……」

 スライムさんは静かに言った。


「では、いきましょうか……。うらやまへ!」

「おみせはいいの?」

「おみせ……。おみせをすてて、やまにいくしかない……」

「捨てなくていいよ。看板を、おやすみ、にするだけで」

「やまが、よんでいる……。よういを、しなければ……」

 スライムさんはいつもどおりの丸い形にもどると、カウンターを降りて準備を始めた。



「えっと、こんなに?」


 スライムさんは、布袋にたくさんの荷物を用意していた。

「やまを、あまくみないほうがいい!!」

「でも、裏山だよ?」


 荷物の中に、剣があった。

「やまはやまです! まものだってひそんでいるでしょう」

「まものはいないよ」

「ふっふっふ。よくかんがえてください。ぼくがやまにいく、ということは、すらいむがいる……。まものがいるということですよ!」

「なに言ってるの!?」

 

「それと、きゅうなてんきのへんかにも、たいおうしなければ」

 スライムさんは、レインコートと、袋を用意していた。

「これは?」

「あめがふってきたら、ぼくがはいります。ぬれたら、おおきくなってしまうので」

 スライムさんは水分を吸収して大きくなる。

 雨の日は大きくなっておもしろい。


「もしかして、私が持つの?」

「そうなってしまいますね。ぼくがぼくをもつ、というのは、どういうじょうたいか、わかりませんので」

「もしかして、荷物も全部?」

 他にも、ビスケットなどの食料や、よくわからない魔法石、ロープなどがぎっしり入っている。

 試しに背負ってみると、とても遠くまで歩けそうにない。


「これ、持っていけないよ」

「やまをあまくみてはいけません!」

「じゃあ、今日は裏山の前まで、散歩する?」

「しかたありませんね。そうしましょう」


 私たちは荷物をあきらめ、お店の戸締まりをしてから、看板をひっくり返して出発した。




 裏山はすぐだ。お店を出たところからもう見えているし、町の敷地内にある。

 木がたくさんあって、その中を、ロープが張った道が通っているのだ。


「これが裏山だよ」

「これが……? ちいさいですね」

「うん。じゃあ、帰ろうか」

 私が後ろを向くと、スライムさんが、ちょっとまってください、と言った。


「えいむさん。すこしのぼりませんか?」

「え? 荷物は持ってきてないよ」

「そうなんですけど、のぼれそうなので」

「山をあまく見たらいけないんでしょ?」

 私がちょっといじわるを言うと、スライムさんはしゅんとしてしまった。


「そうですね……」

「じゃ、ちょっとだけ登ってみる?」

 スライムさんがぴょん、とはねた。

「はい! のぼります!」

「じゃ、ちょっとだけね」


 私は結局、スライムさんと一緒に裏山の頂上まで歩いていった。

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