244 スライムさんと手づくりやまびこ
「あれは……」
スライムさんだ。
よろず屋の裏から声がすると思って行ってみると、スライムさんがなにかしている。
土を集めているんだろうか。
ぐいぐいと、体で押している。
といっても、たくさん集めているわけではなく、スライムさんの体ほどの山ができているだけだ。
でもスライムさんの体と同じくらいということは、スライムさんにとっては大変だろう。
透き通った青い体も、表面がどろどろだ。
「スライムさん!」
「おや、えいむさん。えいむさん」
「こんにちは! どうしたの」
私はスライムさんにかけよった。
「よごれてるよ!」
「みためは、よごれていても、こころはきれい……。そういう、すらいむで、ありたいものです……」
「洗う?」
「そうですねえ」
スライムさんは、自分の体を見た。
「……いいでしょう!」
「私が洗うんだからね?」
「きれいになりました!」
裏で、手おけで水をかけていくと、こする必要もなく、スライムさんの表面の土は、流れてきれいになっていった。
「ちょっと吸ったかな?」
スライムさんが、大きくなったような気もしなくもない。
「ありがとうございました!」
「どういたしまして。でも、なにをしてたの?」
「! こうしては、いられない!」
スライムさんは、ぴゅっ、ととびだした。
「待ってよ!」
追いかけていくと、スライムさんは、さっきの土の山の前にいた。
「どうしたの?」
「いいときに、たちあえましたね。ぼくの、りろんが、じっしょうされるところですよ」
スライムさんは、きりっ、とした。
「理論?」
「ぼくの、やまびこりろんを、ね」
「どういうことか聞かせてもらいましょうか」
「いいだろう、えいむくん」
スライムさんは、山のまわりをまわり始めた。
「えいむくんは、やまびこ、をしっているかね?」
「はいスライムさん。山に向かって叫ぶと、同じ言葉が返ってくるやつですね」
「そのとおりだ。そこそこおもしろいやつだ」
「はい。そこそこおもしろいです」
「そこで、わたしはおもったのだ」
スライムさんが、遠くを見た。
「やまびこは、やまがあれば、いいのではないかと」
「……? スライムさん?」
「えいむくん。やまは、ここに、あるよ」
スライムさんは、自信たっぷりに、ぷに、と山にさわった。
「まさか」
「その、まさかだよ、えいむくん。やまがあれば、やまびこがおきる。これが、やまびこりろんだ!」
スライムさんは、にやりとした。
「……では、見せてもらえますか、スライムさん!」
「いいだろう……。わっ!」
スライムさんの声がひびいた。
「……」
「……」
「……ちょっと、ちいさかったですかね。わっ!」
スライムさんの声がひびいた。
「……」
「……」
スライムさんが、すこしつぶれた。
「りろんが、ほうかい、しました……」
「わっ」
私が小声で言うと、スライムさんが通常の大きさまでふくらんだ。
「いま?」
スライムさんが、きょろきょろする。
「聞こえた?」
「きこえました! やまびこです!」
「私はよくわからなかったけど」
「ちいさかったので! きこえなかったのかもしれません! わっ!」
スライムさんの声がひびいた。
「……」
「……」
「わっ」
私は小声で言った。
「やっぱりきこえました!」
「そう?」
「はい! やまがちいさいから、えいむさんには、きこえなかったのかもしれません!」
スライムさんは、小さな山に向かっていった。
「わっ!」
「……」
「……」
「きこえませんね」
「わっ」
「わあ」
スライムさんはびっくりして離れた。
「なんですか、えいむさん!」
「ふっふっふ」
「! もしかして、さっきの、やまびこは」
「私が言った」
「だましましたね!」
「ふっふっふ」
「こら!」
スライムさんが、きっ、と私を見た。
「だましたら、いけませんよ!」
「だましてないとしたら?」
「……? どういうことですか?」
「私が、やまびこだったとしたら?」
「!!」
スライムさんが目を丸くした。
「えいむさんが、やまびこ……? ……だまされませんよ!」
「だれでも、やまびこになっていいとしたら、どうする?」
「だれでも……?」
「やまびこに、決まりはあるの?」
「……わかりませんね」
「じゃあ、私がやまびこになってもいいでしょ?」
「かもしれませんね……?」
スライムさんが体をかたむけた。
「スライムさんも、やまびこに、なってもいいかも」
「ぼくも?」
「手づくりの、やまびこでしょう? 足りない部分をおぎなうのも、手づくりの、魅力だよ」
「なるほど!」
「わっ」
私が言った。
「……わっ」
スライムさんが言う。
「やまびこ!」
「やまびこ!」
こうして、私たちはやまびこになった。




