242 スラネイターさん
「こんにちは」
スライムさんは、よろず屋のカウンターの前、重ねたバケツの上にいた。
「いらっしゃいませ!」
「スライムさん、あぶなくない?」
「やあ、わたしは、すらねいたーだよ!」
「スラネイター?」
「えいむさんの、こころを、よむものです!」
「ええっ?」
スライムさんによると、スラネイターは、私が思い浮かべたものが、わかるという。
その方法は。
「ぼくが、しつもんをしますので、えいむさんは、はいか、いいえで、こたえてください」
「うん」
「すると、わかります!」
「なるほどね」
だんだん、スライムさんの作戦があきらかになってきた。
「あてずっぽうじゃなくて、探っていくんだね」
「はい! さぐいむです!」
「スラネイターでしょ?」
「どうも、すらいむ・さぐいむ・すらねいたーです」
スライムさんの名前が長くなった。
「じゃあ、おもいうかべてください!」
「わかった」
私は、カウンターの薬草を見た。
「いいですか?」
「うん」
「じゃあ、ききます。それは、みどりですか?」
「はい」
「それは、くさですか?」
「はい」
「やくそうですね!」
「すごい、正解!」
あっというまに当てられてしまった。
「やるね!」
「ふっふっふ! つぎを、どうぞ!」
「じゃあ……」
私はスライムさんを、じゃなくてスライム・スラネイター……、なんだっけ?
やっぱり、スライムさんを見た。
「いいよ」
「……それは、あおですか?」
「はい」
「ちょっと、すきとおってますか?」
「はい」
「しゃべったり、よろずやを、けいえいしたり、してますか?」
「はい」
「ぼくですね?」
「すごい、正解!」
私が言うと、スライムさんは、ちょっと、うかない顔をしていた。
「どうしたの?」
「いえ……。次をどうぞ」
「じゃあ……」
私は、お店の壁にかけてある、鉄の剣を見た。
「えっと」
「てつのけんですね?」
「はい! 正解!」
「えいむさん!」
スライムさんは、バケツから、とうっ、とおりてきて、私に軽く体当たりをした。
「おっと!? どうしたの?」
「みてたら、わかります!」
スライムさんが、ぷにぷに私を押してくる。
「見てる?」
「えいむさんは、おもいうかべるものを、みてます!」
「たしかに!?」
言われてみると、考えるときに見たものを思い浮かべていた気がする。
「気をつけるね」
「おねがいしますよ!」
スライムさんが、ぷに、とした。
「じゃあ……」
私は母を思い浮かべた。
「できましたか?」
「うん」
「それは、にんげんですか?」
「え、はい」
「それは、えいむさんを、うみましたか?」
「はい」
「……えいむさんの、おかあさんですね!?」
「正解!」
「そんなの、すぐわかりますよ!」
スライムさんが、ぷにぷにぷにぷに、と体当たりしてきた。
「え、でも、見てないよ?」
「だいたいわかりますよ!」
「そうかなあ」
「つぎです!」
「えっと、じゃあ……」
具体的なものじゃなかったら、どうなんだろう。
私は、ざーっ、と降ってくる大雨を思い浮かべた。
「いいよ」
「それは、みずですか?」
「え、はい」
「たくさんの、みずですか?」
「はい」
「うえから、ふってきますか?」
「はい」
「……おおあめですね?」
「正解!」
私が言うと、スライムさんは、ちょっとうんざりしたような顔をしていた。
「えいむさん……。ぼくを、よろこばせようとするのは、いいですけど。わざと、わかるようなもんだいをだすのは、やめてください!」
スライムさんが、私の、前、横、うしろから、順番にぷにぷに体当たりをしてきた。
「そんなことないよ。見てないし」
「うそです! かんたんすぎです!」
「それはスライムさんがすごいんだよ」
「じゃあ、どうしてわかるんですか!」
「それは、スライムさんがすごいから」
「いいかげんなことをいわないでください!」
スライムさんがお怒りになってしまった。
「……わざとわかりやすくしました、ごめんなさい」
「ゆるします!」
「ありがとう!」
ほっとしたけど。
「他の人で試してみる?」
「もういいです。きをつかわれる、だけなので!」
「うーん……」
本当に、すごいむなのに。




