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229 スライムさんと金

「えいむさんは、のんびりくらしたいんですね」

「そうだね。ばんばんお金を稼いで、とか、そんなに興味ないよ」

 私とスライムさんは、カウンターの前でそんな話をしていた。


「それなら、きん、いりますか?」


 スライムさんが出してきたのは、金の板だった。


 板といってもそれほど大きなものではなく、私の手のひらの面積の半分くらいだ。

 厚さは硬貨と同じくらい。


「金? どうして?」

「きんは、とても、いいらしいんです」

「いい? きれいってこと?」

「そうじゃないです。おかねと、おなじ、かちがあるので」

「じゃあお金でいいんじゃない?」

「えいむさん」


 スライムさんは目をつぶって、頭をすこし左右に振るようにぷるん、ぷるんと動いた。


「おかねは、ぜったいでは、ないんですよ」

「ふうん?」

「たとえば、このくにが、ほうかいすると、しますね?」

「えっ? どういうこと?」

「くにがほうかいすると、おかねは、いままでどおりの、かちでは、なくなってしまうんです」

「崩壊したの?」

「くにも、ぜったいでは、ないんですよ」

 スライムさんは言った。


「おかねが、げきやすになります」

「激安」

「100ごーるどが、1ごーるどくらいの、かちに、なります」

「なるの?」

「かもです」

「かも」

「でも、きんは、だいたい、そのままです」

「金は? どうして?」

「にんきがあるからです!」


 スライムさんは、ぴょん、ととんだ。


「にんきがあれば、かちがたかいので、おなじかんかくで、おかねが、つかえます!」

「なるほど。100ゴールドが、100ゴールドのままなんだね。金だったら、1万ゴールドとか、かな?」

「そうです! みんな、ほしがりですから!」


 国がどうこう、というのはちょっとわからないけれど、なにかお金の価値に関わる大きなできごとが起きたときのために、金にしてくといいよ、ということらしい。


「だから、あんていがすきなひとは、きんも、すきです!」

「でも、国が崩壊したら、そこの人はお金がないって知られてそうだから、金も、激安になったりしないのかな」

「……」

「スライムさん?」

「ふくざつな、はなしは、やめましょう」

 スライムさんは、重々しく言った。


「わかった。でも、お高いんでしょう?」

「おやすくしますよ!」

「だめ。スライムさんは、安さの加減ができないから」

「がーん!」


 スライムさんは目を丸くした。


「しんようされてない!」

「うん」

「がーん!」

「この金も、お高いんでしょう?」

「……100ごーるどで」

「うそをついたね?」

「ぎくり!」

「本当は?」

「おたかいです。えいむさんには、かえないくらい……」

 スライムさんは、しぼむようにすこし小さくなった。


「正直に言って、えらいよ」

「! ほんとうですか!?」

「うん。エライムだよ」

「やりました!」

 スライムさんは、ぴょん、ととんだ。


「じゃあ、10ゴールドで変える金ってあるの?」

「ありますよ!」



「これです!」


 一緒にお店の奥に行くと、金のつぶがたくさん入っている小箱があった。


「うわあ、いっぱい入ってる」

「これなら、10ごーるどで、ひとつ、もってかえってもいいですよ!」

「本当? ちょっとほしいなあ」

「どうぞ!」

「じゃあ、これ」

 私は、慎重に、ひとつぶつまんだ。


 カウンターにもどって、置いてみる。


「くしゃみをしたら、なくしちゃいそう」

「かみにつつんでおきましょう!」


 小さな紙の中心に置いた。


「ちゅうしんを、かくすように、おりたためば、あんしんです!」

「なるほど。これで、私も、金を持った女だね」

「はい! きんのおんなです!」

「私も、お高くなったね」

「おたかいおんなです!」

 私はすこし考えた。


「……スライムさんに、金をのせると?」

「! おたかいすらいむです!」

「お高くて、エライムだから、すごいよ!」

「はっはっは! たかえらいむです!」

「タカエイムです!」

「ふたりあわせて、たかたかいむです!」

 私たちは、なんだかおかしくてしばらく笑っていた。


 それから、笑っている間にどこかにとんでいった小さな金を探した。

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