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222 スライムさんと2進法

「こんにち……は?」

「えいむくん。いらっしゃい」

「どうも……?」


 いつものカウンターの前には、持ち運びができる、小さめの黒板が立てかけてあった。

 その前にはスライムさんがいる。


 黒板には、10、と書いてある。


「きょうは、おべんきょうをします」

「お勉強?」

「えいむさん。しりたい、というきもちが、おさえられませんね?」

「えっと」

「おさえられませんね?」

 スライムさんが近づいてきた。


「は、はい」

「よろしい。きちんとべんきょうしたら、やくそうを、あげます」

「あめとむちだね」

「あめとむちいむです」

 あめとむちイム。


「さてさっそくですが、えいむさん。これは、なんでしょう」

 スライムさんは、黒板を見た。


 10。


「じゅう」

 私が言うと、スライムさんは、そうですね、と微笑んだ。


「でも、きょうは、じゅうではありません。に、です」

「2?」

 どういうことだろう。


「数字がふたつあるってこと?」

「そうですけど、ちがいます。そういうことではなく、これは、に、です」

「魔物の世界では?」

「そういうことでもないです。これが、にしんほうです」

「にしんほう」

「はい。いつも、ぼくたちがつかってるのが……」

 スライムさんが止まった。


「スライムさん?」

「……」

「スライムさーん!」



「なるほど。私たちがふだん使ってるのは、10進法っていうんだね。それは、1、2、3、って数えていって、8、9、10になったら、位があがる。10。9までは一文字だったのに、10からは、横に新しく出てくる。でも、スライムさんが言う、2進法っていうのは、1、の次にもう、位が上がって、10になる。っていうことなんだね」

 私は、スライムさんが持っていた紙を読んだ。


「そういう、ことです……」

 スライムさんは息も絶え絶えだった。


「だから、99までいくと、100……。あたらしい、くらいが、でてきます……。でも、にしんほうは、1、10、11、100、101、というように、1と0しかなくて、2になったしゅんかん、くらいが、あがるんです……。はあ、はあ」

「スライムさん、無理しないで」

「あたまを、つかい、すぎました……。ぼくは、にしんほうを、えいむさんに、たくします……。がくっ」

「スライムさーん!」



 すこし休んだらスライムさんが元気になった。


「いろいろかんがえすぎて、あたまが、おかしくなりそうでした」

「あぶなかったね」

「はい!」

「でも、2進法がどうしたの?」

「えいむさんに、しってほしかったんです……。かぞえかたは、いろいろ、あると……。いろいろ……」

「……ふうん?」


 スライムさんが、10、を見る。


「ぼくは、じゅう、になることが、あたりまえだとおもっていました……。でも、にしんほうだと、10は、じゅうではなく、に、なんです! わかりますか!」

「いちぜろ、っていうわけじゃないの?」

「どっちでもいい、ともいえます!」

「どっちでも?」

「にしんほうで、とさいしょにいえば、いいです! いわないと、いちぜろ、といっても、きいたひとは、じゅっしんほうの、10、だとおもうかもしれないからです!」

「なるほど?」

「10000だったら、いち、ぜろ、ぜろ、ぜろ、ぜろ、より、にしんほうの、いちまん! のほうが、わかりやすいともいえますです!」

「なるほど!」


 といったことが、スライムさんの持っていた紙にも書いてある。


「ちゃんと、読んだんだね!」

「はい!」

「やったね!」

「はい!」

「でも」

「なんですか?」

「それだと、結局、2進法の意味ってあるの?」

「どうしてですか?」

「だって、2進法の数えかたって、10進法でしてない?」

「え?」

「2進法の1万、って例で言っていたけど、その言い方、10進法だし。2、っていうのも、なんか、10進法から来てない? 2進法だけだったら2っていう言葉、いらない気がするし……」


 二進法だけでやるなら、2、というものはいらなくて、ひたすら、10100011、となる気がするのだけれども。


「えいむさん」

「みんな、ちがって、いいんだよ、っていう話?」

「ちがいます。まず、それぞれ、いいところがあったら、それをつかって、わるいところがあれば、つかわなければ、いいんです」

「なるほど?」

「どっちも、だいじ、ということです」

「あ、そっか」

 それはそうかもしれない。

 悪いところがあったら、やくたたず、というのは、ちょっと考え方がまちがっている。


「それに、にしんほうには、すごいところがあるんです」

「なに?」

「それは、かきかたです」


「にしんほうだと、1、と、0、だけでかけますよね?」

「うん」

「ということは、1か、0かを、わかることができれば、いいことになりますよね?」

「うんうん」

「1か、0だけをわかればいいなら、すごく、すばやく、できますよね!」

「そうだね」

「いちからじゅうまでではなくて、いちか、ぜろ、だけではんだんができる」

「うん」

「ひとがたくさんいたら、むずかしいことをかんがえず、いち、ぜろ、だけをみればいいので、むずかしいことも、ひとがたくさんいるだけで、ばんばん、できます!」

「おお!」

「すると、すごいことができます!」

「何人くらい、必要だろうね!」

「……」

「……スライムさん?」


 スライムさんは、黒板を押して片づけた。


「きょうは、これくらいにしておきましょう」

 スライムさんは、ちょっとつぶれながら言った。


「そうだね」

 私もこれ以上受け止めきれない気がしたので、うなずいた。


「やくそうを」

「薬草を」

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