202 スライムさんとよろず屋総選挙
よろず屋の入り口には、紙に、緑色の絵の具で描かれたなにかが貼ってあった。
近くで見る。葉っぱだろうか。
新製品かもしれない。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ!
スライムさんは、すでにカウンターの上にいた。
「おまちしていました、えいむさん」
「なに?」
「きょうは、そうせんきょです!」
「選挙?」
「そうです」
スライムさんは、重々しく言った。
そこには深い決意を感じさせるものがあった。
「せんきょとは、こうほしゃに、とうひょうをします」
「うん」
「ぼくは、かれを、すいせんします」
スライムさんは、おだやかな顔で横を見た。
いったんカウンターを降りると、素早い動きで横から箱を押してくる。
またカウンターを降りて、ぴょん、と上がって、おだやかな顔で横を見た。
そして、まるで、最初からここにいましたけど? 早くその箱を開けてくれませんか? ずっと待っているのですけれども? と言いたげに私を見た。
私は箱を開けた。
中には薬草が。
「ぼくは、やくそうを、すいせんします!」
「薬草を?」
「これが、よろずや、そうせんきょです!」
きりっ、とスライムさんは私を見た。
「ぼくは、このままだと、やくそうにとうひょうしますよ!」
「ということは……」
「やくそうが、とうせんです! えいむさんはどうしますか!」
「私? 私も推薦していいの?」
「そうです! たたかいです!」
「なるほど……」
スライムさんは、ちょっと挑戦的な笑顔で自信たっぷりだ。
薬草。
これはてごわい。
「本命だね」
「ふっふっふ!」
「だとしたら、私は、毒消し草かな」
やはり、薬草のライバルといえば、毒消し草だろう。
スライムさんは、にやりとした。
予想どおり、ということだろうか。
私は他の品物を見た。
この剣だろうか。
よろいだろうか。
それとも服?
魔法石を使っている杖?
「たくさん出してもいいの?」
「はい!」
「……でも、たくさん出したら、負けちゃうよね」
票がばらけてしまう。
人気の薬草に、よけい、勝てなくなる。
「あれ? 投票するのって、私たちだけ?」
「はい!」
「だったら……」
バラけても、どっちも一位になるような?
「どうしますか? えいむさん」
薬草を推薦するスライムさんは、すっかり勝ったような顔をしている。
そうか。
スライムさんは、結局、私が薬草に投票すると確信しているんだ。
なるほど!
……だったら。
「スライムさんは、その薬草を推薦するんだよね?」
「はい!」
「じゃあ、私は……」
私はよろず屋をとびだした。
「はあ、はあ、はあ」
走ってもどってきたら、すっかり息が切れてしまった。
「えいむさん、とつぜん、どうしたんですか!」
私はスライムさんのくれた水を飲んだ。
「……っ。ありがとう」
「いえいえ!」
「これを……」
私は、手提げから出したものを、カウンターに置いた。
「これは……!」
スライムさんは目を丸くした。
薬草だった。
「昨日買った薬草。私は、これを、推薦するよ……!」
「で、でも、ぼくはやくそうですよ?」
「スライムさんは、その薬草。私は、この薬草」
私が言うと、スライムさんは、ぴくっ、とした。
「!! やくそうは、おなじなまえでも、みんな、ちがう……!」
スライムさんはぷるぷるふるえた。
「どうかな」
「まけました、えいむさん……」
「スライムさん?」
「そこまでされたら、ぼくも、そのやくそうにとうひょうします! とうせんは、えいむさんの、やくそうです!」
「スライムさん」
「ぼくのやくそうは、まけました……」
「えい」
私は、スライムさんの薬草と、私の薬草をまぜた。
「えいむさん!?」
「薬草は薬草なんだし、どっちの薬草でもいいでしょ。これで引き分けだね」
「えいむさん……!」
スライムさんは、ぷるぷるした。
「ぼくは、さきに、やくそうをすいせんして、だいしょうりしたきぶんを、あじわおうとしたのに……」
「そんなことを」
「えいむさんは、どくけしそうをえらんで、やっぱりやくそうにはかてないね、っていうと、おもったのに」
「悪のスライムさんだね」
「はい! ぼくは、あくいむでした!」
「悪イム」
「はい! せんきょの、まものに、とらわれていました!」
「好きな商品が一番になるのが、一番だもんね」
「はい! いまは、よいいむです!」
「良いイム?」
「そういむ!」
「語尾がイムになってるイムよ」
「えいむさんもです!」
「ふふふ。……ここであえて、それぞれの薬草を、別の薬草とすると……?」
「えっ! だれがとうせんするか、わからなくなる!?」
「ふふ」
「えいむさんが、あくいむさんに!」
「私は悪イム」
「ぼくもあくいむ!」
『ふたりそろって、あくあくいむいむだ!』
私たちはダブル悪イムとして、すこし悪い顔をした。




