201 スライムさんと期日前投票
「やくそうは、やっぱりしんせんさが、いのちですよね。そうだ」
とスライムさんが箱を押してきた。
銀色の金属でできているようだ。
スライムさんが入れそうな大きさで、上のところに細い口がある。
「この箱は?」
「とうひょうばこです!」
「薬草は、関係ないの?」
「いやですねえ、はこは、たべられませんよ!」
スライムさんは笑っていた。
「ここでも、とうひょうできるように、とおもったんです!」
「ここで?」
「とうひょうをするとき、とうひょうび、いがいでも、とうひょうできたら、べんりですよね?」
「それは、便利だけど」
「ぼくは、さいきん、きいたんです。このまえの、ちょうちょうせんで。とうじつ、いそがしくて、いけなかったひともいた、ということを!」
「たしかに」
言われてみれば、投票するというとき、その日にみんなで集まっていっぺんに終わらせるというのは、とても効率がいいけれど、都合が悪い人もいる。
そういう人が、がんばって、投票できるようにするのも大変だ。
「便利だね」
「そうですよね!」
「スライムさん、やるね」
「ふっふっふ! どうすればいいのか、わかりませんけど! はこだけ、よういしました!」
スライムさんは、箱をぷにぷにした。
「そっか。じゃあ、二人で考えてみる?」
「! いいですね!」
私たちは、どうして投票日以外に投票できないのか、考えてみることにした。
「いつでもとうひょうできれば、べんりですよね」
「そうだよね。毎日、投票できればいいのにね」
「まいにちですか?」
「ずっと投票できるようにしておいて、集めておいたら、町長を決める選挙が始まったら、すぐ、発表できるでしょ?」
「すごい! はじまったとたん、とうせんします!」
「でしょ?」
「やりますね!」
「でも、どうしてやらないのかな」
私たちは、うーん、と考えてみた。
「だれが、やりたいか、わからないからじゃないですか?」
スライムさんは言った。
「どういうこと?」
「このまちは、だいたい、ちょうちょうさんだけが、りっこうほします。でも、ふつうは、ほかのひとたちもりっこうほして、たたかいますので」
「そうか。そうだよね。ふつうは、争いだもんね」
「たたかいを、わすれて、いきている……。すばらしいことですよ……」
「じゃあ、選挙なんてしなくていいのかな」
「それはいけません! ちゃんと、かくにんしないと! みんいを!」
「そうなんだね」
「はい!」
「じゃあ、毎日投票はだめなのかあ」
「そうですね」
「でも、3日くらい、いつでも投票できたら便利だよね」
「そうですね!」
「あ、でも……」
「どうしましたか?」
「さっきは考えなかったけど、投票したら、投票した紙を、ちゃんと保管しないといけないよね」
「そうですね!」
「3日間、ずっと? それに、誰が投票したか、ちゃんと確認しないといけない?」
「たいへんです……!」
「じゃあ、ここでやるなら、スライムさんが、ずっと、確認……?」
「そんなにろうどうを……? しんでしまう……!?」
スライムさんはぶるぶる震えた。
「なんだか、考え始めただけで、いろいろ大変そうだね」
「そうですね……。きじょうのくうろん、だったのかもしれませんね」
「それはどういう意味?」
スライムさんはすこし考えた。
「きじょうで、くうろん、ということです」
「きじょう」
騎乗かな。
乗馬で、空論?
馬に乗りながら意味のないことを言う。
そんなところかな。
「たしかに、馬に乗るときは、それに集中したいもんね」
「そうですね?」
「投票は、投票日に!」
「はい!」




