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20 スライムさんと土人形

「わっ」


 よろず屋に入ろうとしたら、誰かがいたのでびっくりしてしまった。


「ん?」

 よく見ると、それは人ではない。

 身長は私よりも低くて胸くらいの高さだ。

 頭と体と手足はあるけれども、人よりもずっと大ざっぱなつくりになっていて、丸っこい。

 全体的に濃い茶色だった。

 顔のような部分には、目の高さに穴があいているだけだ。


 それは、ゆっくり私のほうに顔を向け、頭を下げるようにした。


「それは、つちにんぎょう、ですよ!」

 いつの間にかカウンターの上にいたスライムさんが言った。


「土人形?」

「そうです! つちでかたちをつくって、まほうせきをいれて、うごかすんです!」

「土なの?」

「うらにわの、つちで、つくりました!」

「スライムさんが作ったの? すごい」


 私が言うと、スライムさんはうれしそうだった。

「まほうせきをいれたら、じどうてきにできるたいぷの、つちにんぎょうですけど、それはひみつにしてきましょう! ぼくのてがらです!」

 堂々と言った。


「こほん。では、つちにんぎょうくん、ぐるっと、あるいてみたまえ」

 スライムさんが言うと、土人形が歩き出す。

 私のまわりを一周して、元の場所までもどってきて止まった。


「いったとおりに、うごくんですよ!」

「土人形くん、手をあげて?」

 私も言った。

 でも動かない。

「動かないよ」

「ぼくがごしゅじんさまですから!」

 魔法石を入れた者の言うことを聞くようになるという話だった。


「あ、土がちょっと落ちてるよ」

 見ると、店内には土人形が歩いたところに、足あとのように土がついていた。

「つちにんぎょうですからね」

「くずれてるの?」

「ちょっとずつへります」

「じゃあ、なくなっちゃうんだ」

「はかないものですね」

「なんだか、もったいないね」

 私が言うと、スライムさんがにやりとした。


「そこで、こんなものをかんがえました! やくそうつちにんぎょう、こっちにきてください!」

 店の奥から、緑色のなにかが、のっしのっしとやってきた。


「うわー」

 薬草だ。

 体の表面、一面に、緑色の薬草がもじゃもじゃと生えている土人形だった。


「どうですか!」

 一歩ごとに、薬草が、ふっさふっさとゆれている。

 ちょっと、なでてみたいかもしれない。

「あれ、くずれてない」

 歩いてきた薬草土人形は、通ったところに土がこぼれていない。

 足の裏は土なのに。


「どうおもいますか?」

「固い土でつくった、とか?」

 私が言うと、スライムさんは、ノンノン、と笑う。ノンノンとはなんだろう。


「たくさんのやくそうのねっこが、つちを、つかんでいるみたいになってるんです! だからこぼれません!」

「ほえー、すごい。スライムさんが考えたの?」

「ふふふ。ぼくがかんがえたといえばそうですし、まちがって、やくそうがはえているところに、まほうせきをおいてしまったといえば、おいてしまったといえるでしょう!」

 スライムさんは力強く言った。


「それで、この土人形は、なにに使うの?」

「歩いたり、手をあげたりできます!」

「それで?」

「それだけですよ」

 スライムさんは不思議そうだった。


「なにかに使うからつくったんじゃないの?」

「えいむさん? ぼくが、そこまでかんがえているとおもったら、おおまちがいですよ?」

「そうなんだ……」

「あとで、かたのうえにのって、さんぽします」

「上に乗れるの?」

「それくらいでは、くずれませんよ!」

「ふーん。だったら、買ったものを、家まで届けてくれたりもできそうだね」

「え?」

「あと、買い物袋を持って歩いてもらって、薬草の、出張販売とか。ほら、薬草が欲しい人って、家から出られなかったりするでしょ? そんな人のところに行って、抜いてもらって、お金をもらってお店に帰って来てくれたら、便利だよね」

「ちょ、ちょ、ちょっとまってください!」

 スライムさんはバタバタ動いた。


「どうしたの」

「そんなことをしたら、べんりじゃないですか!」

 スライムさんは興奮して、ぴょんぴょんしながら言った。

「そうかな?」

「そうですよ! こうしちゃいられない! いますぐそれをやりましょう!」


 スライムさんは大あわてで、薬草土人形に買い物かごを持たせて、お代はこちら、薬草土人形、スライムのよろず屋さん、と書いた紙をくっつけて、準備完了した。字を書いたのは私だ。


「これで、そとをあるかせれば、しぜんと、やくそうがうれる……! しぜんと……! よのなかが、べんりになるのですね!」

 スライムさんは興奮に震えていた。

「そうだね」

「さっそくやりましょう! つちにんぎょうくん、やくそうをうりに、まちをあるいてきたまえ!」

 スライムさんが言うと、薬草土人形は店を出ていった。



 しばらくすると、町の大人が薬草土人形の腕を引いてやってきた。

『町の子どもが、こわくておびえているのでやめてほしい』


 スライムさんは、便利になるのに、と何度も言いながら聞いていた。

 私は、どちらかといえばかわいいと思っていたけど、それは秘密にしようと思った。

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