191 スライムさんと足つぼ
お店の横にある草原に、スライムさんが置いたという敷物があった。
つぶつぶ、というか、イボイボ?
敷物の上に、ずらりと、いろいろな色の、ぼこぼこしたものがならんでいる。
「これは?」
「あしつぼです!」
スライムさんは言った。
「足つぼ?」
「はい! これのうえをあるくと、からだのことがわかります」
「体のこと?」
「いたいところで、どこが、わるいのか。わかるんです」
スライムさんは急いでお店に行った。
すぐもどってきたスライムさんは、筒のように丸めた紙をくわえていた。
私は、くるくる開いて草原に置いた。
「これは……」
大きく、足の裏の絵が描いてある。
足の裏が、細かく区切られて色分けされていて、そこに小さく字が書いてある。
指だけではなく、足の裏だけでも、20以上に分けられている。
「これが、ふむと、きくところです!」
「すごく細かく書いてあるね」
「はい! これで、ふんだひとが、どこがいたいかで、どこがわるいのかが、わかります!」
「へえ。すごいね」
私はあらためて紙を見た。
「こういうの、だれが考えるの?」
「それは……。せんもんかです!」
「そっか。やってみてもいい?」
「はい!」
私はさっそく靴をぬいで、敷物の端に乗ってみた。
「どうですか!」
「ここはまだ、なにもないよ」
平らな、なにもないところだ。
「なにもない。そうみえていても、なにかがあるかもしれません……」
「なるほど……?」
私はなにもないところの、足の裏の感覚をしっかり味わった。
「さて」
いよいよ、一歩、ふみだしてみる。
「おっ」
「どうですか!」
「かゆいような、痛いような、むずむずするような感じがする」
痛いか痛くないか、というだけかと思ったら、もっと複雑だった。
いろいろな場所が押されて、強かったり弱かったり。
くすぐったいような感じもした。
ちょっと歩いてみる。
やっぱり、複雑だ。
「どこがいたいですか?」
「うーん。どこかなあ」
「わかりませんか?」
「痛い気がしても、痛くなくなったり、痛くなくても、ちょっと痛くなったり」
「ふくざつですね!」
「そんなに強く痛いわけじゃないから。ちょっと気持ちいいし」
「きもちよくて、いたくて、むずむず」
「うん」
「そんなこと、ありえますか……?」
スライムさんはとまどったように私を見る。
たしかに、痛いのに気持ちいいというのはどういうことだろう。
「あまじょっぱい、みたいなことかな」
「なんですか?」
「あまくて、しょっぱい、みたいな味がすることあるでしょう? それ」
「なるほど。なるほど!」
私はもうちょっと歩いてみる。
でもやっぱりわからない。
「痛くないとどうなの?」
「あしのうらがかたまっていて、なにもかんじなくなっていることがあります」
「えっ!?」
「ひじょうに、ゆゆしき、じたいです」
「ゆゆしき?」
「はい」
ゆゆしきってなんだろう。
「でもえいむさんは、いたい、というきもちも、まだのこっています。まだておくれでは、ありません!」
私は草原に座って、足の裏をさわってみた。
あんまりかたくない。
「かたいかなあ?」
「どれどれ」
スライムさんがやってきて、私の足の裏をぷにぷにさわった。
「どうです?」
「くすぐったいよ」
「ふむふむ」
「くすぐったいってば」
「ふむふむ?」
スライムさんがちらちら私のことを見る。
「もう、わざとやってるでしょ!」
「ふふふ」
「私もやる」
スライムさんをぷにぷに。
「くすぐったいですよ!」
スライムさんが私の足の裏をぷにぷに。
「くすぐったいよ!」
私たちがもつれあって、ごちゃごちゃしていたら、スライムさんが敷物の上に転がった。
ぴたりと止まって、私を見る。
「いたくないです」
「そっか」
「ぼくも、かたまってるのかもしれません」
「一番ぷにぷにだけどね」




