188 スライムさんとなんでもない話
「あついですねえ」
「そうだねえ」
私たちは、薬草を食べながら、暑さについて語っていた。
「あついときは、どうすると、すずしくなりますか?」
「雪を降らせてもらえれば」
「それはむずかしいですねえ」
「だよねえ」
私たちは薬草をむしゃむしゃした。
「あ、こわい話とかすると、涼しくなるっていうけどね」
「こわいはなしですか……。ききたいですか?」
「ききたくない」
「ですよねえ」
「うん」
私たちは、薬草をむしゃむしゃした。
「む、になると、ちょっとすずしいですね」
「む? そうだね。無、はありだね」
「だったら、なんでもないはなし、はどうですか?」
「なんでもない話?」
「そうです。こころが、む、になりますから、こわいはなしをせずに、すずしくなるかもしれません」
「じゃあ、やってみる?」
「はい!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
「ええとねえ。じゃあ、私は、スライムさんのよろず屋に行きました。薬草を買って帰りました。まんぞくしました。おわり」
「なるほど。なんでもない、はなしですね」
「でしょう?」
「……しかし! そこには、おとしあながありました」
「え? どこ?」
「やくそうです」
スライムさんは、薬草を食べた。
「むしゃむしゃ。やくそうは、うれしいはなしです」
「なるほど?」
「それにえいむさんも、まんぞくしました、といっています。これは、なんでもないはなしではなく、まんぞくした、うれしいはなしです!」
「たしかに!」
「そうです!」
「たしかに!」
私は深くうなずいた。
「私はあまかった。もっと、なんでもない話を考えるね」
「はい! えいむさんは、こうじょうしんの、かたまりですね!」
「こんなのはどうかな」
こほん。
「私は、スライムさんのよろず屋に行きました。なにも買わずに帰りました。おわり」
「いいですね! なんでもないです!」
スライムさんは、まんぞくそうに、薬草を食べた。
「……ふっふっふ」
「どうしました、えいむさん。ふ、いがいの、ことばをわすれてしまいましたか?」
「スライムさん。実は、この話、なんでもなくないんだよ」
「どういうことですか?」
「スライムさんのよろず屋に行ったら、私と、スライムさんは、遊んでるよね?」
「はい!」
「ということは、この話の私も、きっと、遊んでるよね?」
「! ということは!」
「楽しい話でしたー! これは、なんでもない話に見せかけた、楽しい話でした!」
「やられました!」
スライムさんは、くるっと回った。
「たのしいといわず、たのしいをかたるとは……。えいむさんは、たつじんですね!」
「ふっふっふ」
「でも」
「ん?」
「なんでもないはなしを、してっていったのに、たのしいはなしをする。えいむさん」
「はい」
「しっかくです!」
「ぐわー!」
私は、床に手をついた。
「やられた」
「えいむさん……」
「私は、未熟だった……」
「いいんですよ。みじゅくなひとだけが、せいちょうすることが、できる……」
「名言だね」
「めいげんすらいむです!」
「では、薬草をひとつ」
「いけませんえいむさん!」
スライムさんが、私と薬草の間に体をすべりこませた。
「どうしたの」
「ゆかに、てをつきましたね?」
「あっ。手、洗ってくるね」
「はい!」
私は裏で手を洗ってから、また、スライムさんと薬草を食べた。
「今日は、薬草を食べました。おいしかったです。おわり」
「それはおいしかったはなしですよ!」




