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178 スライムさんと缶けり

 空が晴れていたので、ぶらぶら歩いていたら、キラキラ光るものが目に入った。

 川の水面だった。


 私は、道からはずれて、ちょっとした坂を下っていった。


 この川は、ひざくらいの深さもない。日によっては、ほとんど水が流れていないように見えることもある。

 水面は光を反射してきれいだ。

 一瞬たりともおなじ光り方をしていない。まぶしくて、すこし目を細くした。


 カン。


 音がした。

 気のせいだろうか。

 そう思ったけど、また、カン、と聞こえた。


 音のするほうへと歩いていく。


 川はゆるやかにまがっている。川原から道へ登っているので、見通すことができない。

 音を出しているのがなんかのか、ゆっくり見えてきた。


 スライムさんだ。


 うしろ姿だった。

 缶を置いて、すこし離れて見ている。

 缶は縦に細長い。

 と思ったら、突撃していって、体当りした。

 カン、と低くとんだ缶が、ころりと縦に転がって、また立った。


「立った」

 私が言ったら、スライムさんはこっちを見た。


「えいむさん!」

「なにしてるの?」

「かんけりです!」

 スライムさんは、ぴょん、ととんだ。


「かんけり?」

「はい! かんを、けります!」

「ふうん?」


 私は缶を見た。

 銀色で、表面には、とくになにも書いていない。


「缶をければいいの?」

「はい! でも、むずかしいですよ! かんけりは、かんをけって、また、もとどおり、たたないといけません!」

「立つように?」

「はい! やってみますか!」

「え、じゃあ、やってみる」


 私は、缶の前に向かった。

 歩いていって、軽くけってみた。


 カン、と縦に転がった缶は、そのまま倒れてしまった。

「だめだった」

「まあ、しょしんしゃは、しょうがないですよ」

「スライムさんは何度でもできるの?」

 私は缶を拾ってきて、立たせた。


「えいー!」

 スライムさんは缶に体当りする。

 カン! と転がった缶は、さっきよりも多く回転して。


 ピタリ! と立った。


「おおー! すごい」

「ふっふっふ!」

「何度でもできるんだね!」

「ふっふっふ!! えいむさんにみせるために、ひそかに、れんしゅうしていたのです!」

「見ちゃったね」

「ぎじゅつが、かんせいしていたので、ぎりぎり、だいじょうぶです!」

「よかった」


 スライムさんはぴょこぴょこ、川と反対側に行くと、缶をくわえてもどってきた。


「あれ、他にもあったの?」

「はい! あたらしいわざ、にかんけり、をれんしゅうしているのです!」

「二缶けりかあ」

「はい!」

 スライムさんがちょっと手間取っていたので、私は缶を縦につんであげた。


「ありがとうございます!」

「いえいえ」

「では、いきます!」

 スライムさんは、うりゃー! と体当たりをした。


 缶は縦に転がった。

 けれども、どちらも倒れてしまった。


「あー」

「むずかしい……! あっとうてき、むずかしさ……!」

 スライムさんは、くう~! と、くやしがった。


「ふたつは、倍以上の難易度だね」

「はい!」

「でも、やるんだね?」

「はい! それが、かんけりです!」

「おうえんするよ!」

「ありがとうございます!」


 スライムさんは、缶を拾ってきた。


「では、えいむさんも」

「私? むりむり、一個でもできないんだから」

「でも、にこならせいこうする、そういうこともあります!」

「そう? じゃあ、せっかくだし、一回だけやってみようかな」

「そのいきです!」


 私は缶を縦につんだ。


 ちょっとだけ助走して。

 強めに、下の缶をけってみた。

 すると。


「あ」


 すこーん、と下の缶だけが抜けて、転がった。

 そして上の缶がそのまま落ちてきて、立った。


「ええっ!?」

 スライムさんが声をあげた。


「ど、どういうことですか!?」

「えっと、強くけったから、下だけ抜けたのかな」

「すごいですよ!」

「スライムさんのほうがすごいよ」

「そんなことないですよ! ぼくもあれ、やりたいです!」

「うーん。スライムさんは、ちょっと、むりかも」

「なぜ!?」

「体の、幅的に……?」

「はば!」


 スライムさんは、ぼうぜんとした。


「はばに、はばまれた……。なんということでしょう」

「なんということでしょう」

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