175 スライムさんとペット
「えいむさん、はやくはやく!」
「なになに」
「えいむさん、これを」
よろず屋でスライムさんが用意していたのは、輪っかだった。
革の輪で、金具で輪の直径を調整できるようになっている。
それと、輪にはひもがつけられていた。赤いひもだ。
「なに、これ」
「ぼくにつけてください」
「スライムさんに?」
「はい!」
「うーん」
つけると言われても。
私は、スライムさんのおでこに巻くように、取りつけてみた。
「こうかな」
「そうぞうと、ちがいますね」
「え?」
「もっと、くびわでおねがいします」
「首輪……」
私はスライムさんを見た。
スライムさんの前に、輪を置く。
「スライムさん、この輪の上に、お願いします」
「はいはい」
スライムさんはぴょこぴょこと、そこに移動した。
私はよろず屋から小さい鏡を持ってきて、スライムさんの前に置いた。
「いかがでしょう」
「おお! これは、かなり、くびですね!」
「でしょう」
「これをいただきます! おいくらですか!」
「100万ゴールドでございます」
「なんと!」
「でも、今日は、ただです」
「えっ!? それは、いけないのでは?」
「実は、この輪っかは、お客様のものなので、ただなのです」
「なるほど! おとくですね!」
スライムさんはぷるぷる震えた。
「それでスライムさん。なんで首輪なの?」
「ぼくを、かってほしいんです」
「買う?」
「かう、です!」
「飼う?」
「はい!」
「私がスライムさんを飼うの?」
「そうです!」
「どういうこと?」
「えいむさんは、どうぶつを、かったことはありますか?」
「ないよ」
「ぼくもないです! そこで、どうぶつをかってみたいと、おもいました!」
「ふむふむ」
「でも、どうぶつをかうとき、せきにんがあります! さいごまで、しっかりと、みとどけなければなりません!」
「そうだね」
「でもぼくは、せきにんをもちたくないです!」
「責任は大変だよね」
「そこで! ぼくを、えいむさんに、かってもらうことにしました!」
スライムさんは、きりっ、とした。
「なるほど」
「わかってくれましたか!」
「私がスライムさんを飼うの?」
「はい!」
「それって、スライムさんは飼ってる気持ちを味わえるのかなあ?」
「たしかに……。でも、なにかをえることは、なにかを、うしなうことです……!」
スライムさんは、すっかり心の整理をつけているようだった。
「あと」
「なんですか!」
「私に、責任があるよ」
「むむ?」
「責任は、大変だよ」
「そう、ですね……」
スライムさんは、私のまわりをゆっくりと、ぴょこぴょこ一周した。
「ぼくは、えいむさんに、せきにんをおしつけることで、じぶんがらくになろうとしていただけかも、しれませんね……」
スライムさんは、ぽつりと言った。
「スライムさん……」
「ぼくは、かわれるのを、あきらめます……」
「待ってスライムさん」
「なんですか……。ぼくのことなんて、わすれてください……」
「首輪、もうひとつある?」
「え……?」
「これでどう?」
私は、スライムさんの首輪のひもを持った。首輪は頭の上にのっている。
そしてスライムさんは、私の首輪のひもをくわえた。
「こうして、飼いながら飼われることで、気分も味わえるし、責任もなくなるよ」
「なるほど! あんしんです!」
「じゃあ、散歩でもしようか」
「はい!」
私たちは、よろず屋のまわりを一緒に歩いた。
「歩きにくいね」
「はい!」




