168 スライムさんと先割れスプーン
「えいむさん、きょうは、なんだかさむいですよね?」
「え? ああ、そうだね。なんだか、寒かったりぽかぽかしてたりするよね。でも、今日はわりと」
「さむいですね?」
「あ、うん。寒いね」
「そんなときには、これです!」
スライムさんは、カウンターの上の箱を、ぷに、と押した。
「あけてみてください!」
「これ?」
開けてみる。
すると、ふわっ、といいにおいの湯気が。
「わあ。あったかそう」
そこには、スープがあった。
中には、透き通ったスープと、ニンジンとざっくり切ったタマネギが入っていた。
「おいしそうだね」
「さっき、ごよういしました!」
「え? そうなの?」
「はい! ぼくは、そういうのはあんまりですけど、えいむさんは、おすきなら、どうぞ!」
「そうなんだ? でも、ひとりで食べるのはなあ」
と言っているそばから、スライムさんは薬草を用意して、もぐもぐと食べ始めた。
「あ、先に食べたな!」
「スライムは、なにごとも、はやいものなのです……」
スライムさんは言った。
「じゃあ、スプーンある? それと……」
野菜がちょっと、大きめに切ってある。
「フォークもいるかな」
「ふっふっふ」
スライムさんは、不敵に笑った。
「これをどうぞ……」
とスライムさんが出してきたのは。
「なにこれ」
スプーンだ、と思ったけれど、先の部分がフォークのようにすこし分かれている。
「これがあれば、すぷーんと、ふぉーく、ふたつなくても、だいじょうぶです!」
スライムさんは、もぐ! と薬草を食べた。
「本当だね」
すくってみると、思ったよりちゃんとスープもすくえる。
「あったかくておいしい」
塩味と、やわらかなあまみのあるスープだった。
「よかったです!」
「ニンジンも、させる!」
「よかったです!」
ニンジンも、ほのかにあまい。
「食べやすいよ、スライムさん」
「よかったです!」
「うん。えっと……、これスプーン?」
「えっと……」
スライムさんは止まった。
「すぷーん。です?」
「フォークなの?」
「ふぉーく。です?」
「わからないの?」
「そうです!」
スライムさんは元気よく言った。
「そっか。まあ、便利ならいいよね。安いならひとつ買ってみようかなあ」
「えいむさん!」
スライムさんは、きっ、と私を見た。
「べんりなら、なんでもいいんですか!」
「え?」
「べんりなら、じぶんがつかっているものが、なんだかわからなくてもいいんですか!」
「えっと」
「それが、どんなものなのかわからなくても、べんりだったらいいんですか!!」
「うーんと」
「むりょうのさーびすが、ほんとうにむりょうだと、おもっているんですか!」
「うーん?」
「えいむさん!」
スライムさんは私を見た。
「えいむさんは、べんりだったら、それでいいと、おもいますか!」
「うーん。むずかしいけど……。便利だったら、それでいいかもしれない」
「ぼくもそうおもいます!」
スライムさんが、ぴょーん、ととんだ。
私はスープを、スライムさんは薬草を、おいしく食べた。




