162 スライムさんと結婚
「こんにちは」
お店に入ると、スライムさんがこっちを見た。
スライムさんはカウンターの前にいて、カウンターには鏡が立てかけてある。
「いらっしゃいませ!」
「こんにちは。なにしてるの」
「きょうは、けっこんしようとおもいまして」
「結婚?」
「そうです」
スライムさんは、置いてある鏡の前に立つと、横を向いた。
そうすると、スライムさんがふたり、ならんでいるようにも見える。
いや。
いやいや。
結婚……?
「結婚って、つまり、私のお父さんとお母さんがやったようなやつ?」
「そうですね」
「それをスライムさんがするの?」
「そうです!」
「そうなんだ!? おめでとう?」
「ありがとうございます!」
スライムさんは、くるりとまわった。
まさか、スライムさんが結婚するとは。
「相手は誰なの?」
「あいては、いません」
「えっと……?」
「あえていうなら、ぼくです!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
「どういうことなの?」
どういうことなの?
「えいむさんは、けっこんをすると、どうなるかしってますか?」
「しあわせになる、とか?」
「そうです! ぼくは、そこにめをつけました!」
スライムさんが、きりっ、とした。
「ぼくは、しあわせになります!」
「ええと、でも、相手がいないと。あっ」
「そうです! あいては、います!」
スライムさんは、鏡をさわった。
「かがみのぼくと、けっこんします!」
なんということでしょう。
「けっこんは、あいてをさがすのが、いちばんたいへんだとききました! しかし! あいては、ここにいたんです!」
「なるほど?」
「ということで、しあわせです。あ、えいむさん、ちょっといいですか?」
「なあに?」
「てつだってください!」
「ええと、もういいの?」
「はい!」
私は、スライムさんと、鏡スライムさんの前にいた。
鏡スライムさんは、スライムさんにしか見えないから私にとっては、スライムさんの前にいるだけなんだけど。
「じゃあ、始めます」
「はい!」
「こほん。スライムさん。あなたは、いつでも、スライムさんが、いろいろあっても、なくても、スライムさんと一緒であることを、誓いますか?」
「はい! ちかいます!」
「では、これで結婚です。おめでとうございます」
「はい!」
私は一礼して、横に動いた。
「これでよかった?」
「はい! ありがとうございました!」
「なんだか、きりっ、としてるね」
「そうですか! けっこんとは、そういうものなんですね!」
「かもね」
「えいむさんも、けっこんしますか!」
「私はいいや」
「どうしてですか!?」
「なんか、鏡をずっと、持っていないといけない気がするから」
私が言うと、スライムさんは鏡を見た。
「なるほど……」
「どうなのかな」
「そこまでは、しらべませんでした」
スライムさんは、たしかめるように何度か、鏡の前に来たり、鏡から外れたりした。
そして、お店の奥から鏡を持ってきて、深く息をついた。
私を見る。
「えいむさん……」
「なに?」
「ちょっと、かがみをかたづけます。てつだってくれますか?」
「いいけど」
いま、出したばっかりなのに。
「けっこん、やめます」
「え?」
「けっこんは、ちょっと、つかれそうですね……」
「うちの親も、たまにケンカしたりしてるよ」
「そうですか!」
「仲直りするけどね」
「そうですか……。なるほど……」
「えいむさん」
「うん?」
「ぼくには、けっこんは、まだ、はやかったみたいです!」
「そう?」
「けっこんは、あいてさがし、いがいも、いろいろたいへんらしい、ということが、わかりました……」
「そっか」
「はい!」




