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16 スライムさんと名札

 私は気づいた。

 スライムさんはいつも私の名前をまちがえる。

 ならどうすればいいか。

 これだ。


「こんにちは」

 私はいつものようによろず屋に入っていった。

「いらっしゃいませ!」

 スライムさんがカウンターの上に現れる。


 そして、呼ぶ。

「こんにちは、えいむさん」

「ふふふ。正しい名前を言ったね?」

「はっ」

 スライムさんが、はっとした。


 そうなのだ。

 私はこれまで、スライムさんが私の名前をまちがえ続けていたとしても、責めずに、そのときそのときで訂正していた。怒ったりするようなことでもないし、スライムさんはそういうスライムだ。

 でも、これを使えば解決すると思いついた。


「というわけで、名札をつけてきました」


 私は胸をはって、名札をしっかりスライムさんに見せた。


 小さな白い布に黄色い糸でぐるりと、かんたんなししゅうをして、その中に、エイム、と書いた。


「これならスライムさんはまちがえないでしょ」

「すごいです!」

 スライムさんは興奮してカウンターから降りてくると、私の前でぴょんぴょんはねた。


「名札だよ」

「それは、えいむさんがかんがえたんですか?」

「え、まあ」

「すごい! このしすてむを、えいむさんが……!」

「システム?」

「そとのひとにも、おしえてきましょう!」


 スライムさんが店を飛び出していった。

 前の道でキョロキョロしている。


「どうしたの、スライムさん」

「とおりすがりのひとに、えいむさんという、はっそうりょくが、とてつもないおんなのこがいる、とおしえてあげるんです!」

「やめて!」


 私はスライムさんを捕まえて、よろず屋にもどった。


「どうしたんですか」

「私は名札を開発したわけじゃなくて、名札を使おうって考えただけ! 発想力はふつう!」

「そうなんですか。おしいことをしましたね」

 どういうことかな。


「そうだ。このお店って、名札は売ってないの?」

「ないです。にてるのはあります」

「どんなの?」

「ええと」


 スライムさんが持ってきたのは、ガラスの箱のようなものだった。

 透き通っていて、向こうがよく見える。

 面の大きさは、私がめいっぱい広げた手のひらくらい。


「これは?」

「ぼくをみてください」

「うん」


 箱の向こうにいるスライムさんを見る。

 すると、スライムさんの顔に、スライム、と見えた。


「どうですか」

「スライム、って書いてある」

「そうです! なまえがみえるんです! えいむさんは、えいむ、ってかいてあります!」

「なにそれ!」

 そしてスライムさんは名前がスライムなのか!


「名前がわかる箱なの?」

「そうです。なふだとにてますね!」

「名札よりすごいと思うけど。使わないの?」

「おちたら、われてしまうので。でも、いちいちだすのはめんどうですし」

「なるほど」

「えいむさんの、なふだのほうがすごいです!」

「そうかな……、へへ」


 すごいアイテムよりも、さりげないものの方が効果的なこともあるのか。

 そう思うと、なんだかほこらしかった。


「じゃあ、また明日も名札つけてくるね」

「はい!」

「……ちなみに、その箱が割れないようにするアイテムっていうのはないんだよね?」

「なかのものをわれなくする、とうめいなはこ、はあります」

「あるの!?」

 私がおどろくと、スライムさんは深刻そうな顔で続ける。

「でもそれにはもんだいがあるんです……」

「なに……?」


「……どこにしまったのか、わすれたんです!」

「お店のものはちゃんと管理しておかなきゃだめでしょ!」

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