159 スライムさんとおせち
「こんにちは」
お店に入ると、スライムさんは、きりっ、という顔をしていた。
「あれ？ どうかした？」
「なんとなく、きょうは、あたらしい、きもちです」
「スライムさんも？ 私も」
「えいむさんも？」
「どうしてだろうね」
「ふしぎです！ というわけで」
スライムさんは、カウンターに乗った。
「おせちをたべましょう！」
「おせち？」
おせち。
言葉のひびきで答えを導こうとしてみたものの、なにも浮かばなかった。
「おせちってなに？」
「おせちっていうのは、たべものです！」
「食べ物か」
食べ物と言っていたから食べ物、とはかぎらないのがスライムさんなのである。
「どういう食べ物？」
「それは、じゆうです」
「自由！？」
「おせちとは……。りょうりをしなくても、たべられるもの、ということです」
「料理をしなくても食べられる」
「つまり、らくをする、ということです」
「いい食べ物だね？」
「はい！」
「というわけで、おせちをたべましょう」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
「おせちかあ」
「えいむさんは、らく、したくないですか？」
「したい」
「だったらたべましょう！」
「でも私、毎日、お母さんに食事をつくってもらってるし」
「なんと！ ……ということは、えいむさんは、まいにち、おせちですね？」
「そういうこと？」
でも、スライムさんの言うとおりだとすると、そういうことだ。
「じゃあ、私は、おせちの先輩だね」
「せんぱいですか？」
「だって、私はこれまで毎日おせち、食べてたんだから。スライムさんはおせち、食べたことある？」
「ちょっとだけ」
「ふふん。私は、毎日だよ」
「すごい！ ずるい！」
スライムさんは、ぴょぴょぴょん、と左右に細かく行き来した。
「ぼくは、やくそうをたべていますけれども！ うらにわで、かってに、そだちますけども！ ちょっとは、おていれを、していますから！」
「そういう場合はおせちじゃないの？」
「おせちは、かんぜんに、たべるだけのやつなので！」
「そっか。そっかー。ふふん」
「えいむさん！ とくいげにしないでください！」
「ふふーん」
「えいむさん！」
スライムさんが、ぴょぴょぴょん、ぴょぴょぴょん、とカウンターの上を動きまわる。
「……あ、でも、そうすると、お母さんは、おせち、食べられないのかなあ」
毎日用意をしているということは、そういうことになる。
「そうですね」
「じゃあ……。今度、私がごはんの準備をしようかな」
「えっ？」
「そうしたら、お母さんがおせちを食べられるじゃない？」
「！！ えいむさん！」
スライムさんは、目をまんまるにして、私を見た。
「ぼくは、かんどうしました！」
「スライムさん？」
「おかあさんに、おせちをたべさせるために、えいむさんが、ついに、うごくんですね！」
「そうしようかな」
「きっと、よろこびますよ！ かんどうです！」
スライムさんが、何度も、感動です、感動です、とくりかえした。
「じゃあ、薬草サラダがいいかなあ」
「はい！」
「あと、薬草スープと、薬草炒めと……」
「はい！」
「薬草サンドイッチとか」
「おまつりですね！」
「よーし、いそがしくなるぞー！ 今日は、薬草をいっぱい買って帰るぞー！」
「はい！」
いっぱい買って帰った私は、母に言われてほとんどの薬草を返品しに、お店にもどった。
それから、母と一緒に夕食をつくった。
