153 スライムさんと穴あきナイフ
「こんにちは。わっ」
よろず屋に入ると、スライムさんがハサミをくわえて、カウンターの上にいた。
「どうしたの」
「ふごふご」
「そっか」
私は、スライムさんのくわえているハサミをとった。
「こんにちは!」
「こんにちは。で、どうしたの」
「これをあけようと、おもいまして」
カウンターには、平べったい包みがあった。
分厚い紙をぱたん、と二つ折りにしてぐるぐる縛って、中でなにか、はさんでいるみたいだった。
「これを切るの? やろうか?」
「おねがいします!」
私がわたされたハサミで切ってみると。
「ナイフだ」
ナイフが一本出てきた。
ナイフは、指が通るかどうか、ぎりぎりくらいの穴が4つ、ならんであいている。
大きさは、ふだん、料理に使うくらいのものだった。
「穴があいてるよ」
「はい! じつは、ここに、とくしゅな、ほうせきがはいっているものなんですが!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
「不良品っていうこと?」
「ちがいます! みほんです!」
「見本?」
「これに、つめたくなる、まほうせきとか、あつくなるまほうせきとか、いろいろなものをいれて、ぼうけんしゃが、たたかいます! かるいので、まほうつかいが、つかいます!」
「おおー。すごいやつだ」
「それの、みほんです! これで、だいたいのおおきさとか、かうまえの、おきゃくさんに、しってもらいます!」
「ふうん? どうして品物を置かないの?」
「これは、かんぜんじゅちゅひんですから!」
「かんぜんじゅちゅひん」
「たのまれたら、ちゅうもんして、おくってもらうんです!」
「ふうん」
「じゃあ、これはおいておくだけなんだね」
「そうです! これが、ほしいひとも、いませんし!」
「これって、果物を切ってもいいの?」
「いいですよ。どうしてですか?」
「ふっふっふ」
私は、手さげからオレンジを出した。
「おや?」
「いつももらってばっかりだから、今日は、私が持ってきたよ」
「おお!」
「やっぱり、切りたてがいいかと思ったんだけど、ナイフを忘れちゃって。ちょうどよかった」
「えいむさんは、うっかりですね!」
「うふふ」
ついでに、板を出してもらってその上を使うことにした。
いったん、外の水場で板とナイフを洗って。
「じゃあ、これで、と。皮をむいて」
私は手で、くるくると、りんごの皮をむくみたいに皮をむいた。
それから半分に切って、細めに切っていく。
「えいむさんは、そうやってむくんですね!」
「うん。あれ?」
なんだか、いつもとちがうような。
「どうかしましたか?」
「……あ。くっつかない」
切ったオレンジが全然ナイフにくっつかない。
「ナイフにオレンジがくっつかないよ」
「どうしてでしょうね」
「穴があいてるから、なのかな」
「かもしれませんね!」
「もしかしてこれ、ふつうに売ったら、主婦に売れるんじゃない?」
「そうですかね!」
「うん。でも、お高いんでしょう?」
「じゃあ、1万ゴールドで!」
「本当に高いよ!」
「でも、これは、とくべつなそざいとせいほうなので」
「あ、ふつうに高いものなんだね」
「はい!」
「じゃあ今度、お手ごろ価格で、つくれたらいいよね」
「はい!」
「はい、オレンジ」
「ありがとうございます!」
スライムさんにオレンジをあげると、スライムさんの口元が、青と黄色が混ざって、ちょっとだけ緑色になった。




