150 スライムさんと二度目の話
「スライムさんって、同じ話を聞くことってある?」
「なんのことですか?」
裏庭で、スライムさんを転がして遊んでいたとき、ふと思った。
スライムさんの顔が地面につかないように、横向きで転がすのがコツだ。
「うちのお父さんがね、たまに、同じ話をするの」
「どんなですか?」
「たとえば……。小さいころ、王都に行って、豪華な料理店で食事をしたことがあるんだけど、そういう話」
「ほうほう?」
「それをね、初めて話すみたいにするの」
「それが、嫌なんですか?」
「うーん。だって、一回聞いた話じゃない?」
私が言うと、スライムさんは体を軽くまげた。
「もういっかい、きいたらいいのでは?」
「でも、知ってる話だよ」
「えいむさんは、ぼくとのはなしも、いやですか?」
「そんなことないよ」
「でも、おなじはなしを、よく、しますよ」
「そう?」
「やくそうをください、とか」
「それは注文でしょ」
「でも、しますよ」
「しなきゃ、買えないもん」
「いやですか?」
「ううん、全然」
「だったら、おなじはなしでも、いいんですね」
「うーん。たしかに、そうかもしれない?」
同じ話をしているといえば、している。
「あ、そういえばね。お父さんが、おいしかった、っていうのが嫌かもしれない」
「父さんが嫌いなんですか?」
「そうじゃなくて、私は、お肉がかたくておいしくなかったの。でも、お父さんが、おいしいだろう? ってうれしそうにいうから、がんばって食べたの」
「いやなことが、いやだったんですね」
「うん。そのあと、デザートを食べた話は好き」
「どんなでざーとですか?」
「冷やした、知らない果物で、あまくてすっぱいの」
「ほうほう」
「食べたら、だんだん、味が濃く感じられるの」
「ほうほう?」
「だんだん味が濃くなっていって、ふっ、て消えるの」
「ほうほう??」
「それが、スプーン三回くらいで食べ終わっちゃって、もったいなかったなあ」
「もったいないですね!」
「その味は、何度も想像したことある」
「ぼくもそうぞうしてしまいますね! かってきてください!」
「それは、ちょっとむずかしいんじゃない?」
「じゃあつくってください!」
スライムさんが言ったとき、私はふと思った。
あの肉が嫌だったことより、デザートのことをきいてみればいいのかもしれない。
そうしたら、父もその話をしてくれるかも。
「スライムさん、よくわかった」
「え? ぼくは、ぜんぜんそのあじがわからないんですけど」
「ありがとう」
「ちょっとまってください、あじは? あじは?」
「えい」
「わー、ころがさないでくださーい! ……ころがすのがじょうずですねー!」




