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15 スライムさんと氷

 一日中強く降っていた雨がやんだ。

 朝になると、雨がウソのように青空がまぶしくて、おだやかな天気になっていた。

 ほっとして外に出た。あちこちに大きな水たまりがある。


 長靴は、今日は干しているのではいていない。

 私は、水たまりに足を入れたい気持ちをおさえながら、よろず屋への道を歩いた。

 雨水が残っている木々が太陽の光でキラキラ光っていた。


「あれ?」

 おかしいな、と思ったのは、よろず屋が見えてきたときだ。

 最初は建物の色をペンキかなにかで変えたのかと思った。よろず屋が、なんだか変な形に見えたからだ。

 しかも白っぽい。


 近づいていくとわかった。

 どうやら、よろず屋は凍っている。


 壁も、屋根も白っぽくなっている。

 おまけに、雨が降っている最中に凍ったのか、屋根の上や壁に氷の層ができていた。

 なにが起きたんだろう。


 入り口は開いていた。

 入ってみる。

「わ」

 店内の空気は、すごくひんやりとしていた。

 季節が変わってしまったみたいだ。


「……こんにちは」

 呼びかける声が小声になってしまった。

 カウンターの上にスライムさんが現れない。


「こんにちは。こんにちはー!」

 ちょっと大きめの声で呼びかけた。

 けれども、返事はなかった。


「スライムさん?」

 いないのだろうか。

 お店を開けっぱなしで出かけた? スライムさんはそういう人ではない……、と思うけど。


 店内を見まわす。お店の中も、外と同じように凍っていて、壁や、商品の表面が白っぽく見える。凍っていていいのかな、と思うようなものもあって……。


「うわっ!」

 びっくりした。


 壁に沿って立っていた、透明なもの。

 柱にも見えるけれどもそんなところに柱はなかったな、とぼんやり見ていて気づいた。

 青みがかった細長い柱の上の方に、目と口が。


 これはスライムさんだ。


 昨日、太いヘビのような形になったスライムさんが、凍ったまま立っていた。

「……スライムさん……?」


 返事はない。

 表面が白っぽくなっていて、すっかり凍ってしまっているようだ。

 いったい、なにが起きているのだろう。


 よく見ると、スライムさんは口になにかくわえていた。

 正方形で作られた立体物のようだった。

 透明で、見ていると、表面がキラキラと光っていた。じっと見ると、表面のキラキラはゆっくり動いているように見えた。

 これが原因なのだろうか。


 私は壁にあった長い棒を持って、先を、スライムさんの口元に近づけていった。

 つん、つん、と四角いものをつっつく。

 五回くらい棒の先があたったとき、四角いそれがスライムさんの口から落ちた。


 床に落ちた。割れたり、弾んだりすることなく、べた、と床に落ちて止まった。

 落ちてつぶれた泥だんごのようだ、と思ったけれど、四角い形はすみずみまで保たれていて、どこもつぶれていない。


 すると、落ちた床のまわりがだんだん白く、凍りついていく。

 これがよろず屋とスライムさんを凍らせたらしい。


 なら、これを外に出せばいいんだろうか。

 外が凍ってしまうんだろうか。


「わ」

 足が上がらない。

 力を入れると、やっと動いた。靴の裏が凍ってきていた。


 私は立ち止まらないよう、足ぶみをしながら考える。


「……おや?」

 見上げると、スライムさんが目をぱちぱちさせていた。

 体の下の方はまだ凍っているけれども、上の、顔のあたりはぷよぷよのやわらかさを取りもどしたのだろうか。


「スライムさん!」

「おや? これは……」

 スライムさんは目だけ動かしてこっちを見る。

「スライムさん、なにがあったの? この氷はなに?」

「ああ、へこらさん。こんにちは」


 この際名前まちがいはどうでもいい。

「これ、どうしたの!」

 私はさっきの棒で、落ちた四角い氷のようなものをつっついた。

「それはあまもりをしゅうりするのにつかったんですよ!」


 スライムさんによれば、あまもりの修理は、私がいるときには一度うまくいったものの、形が変わった体で、はしゃいでいたら、また別のところから雨もりがあったのだという。

 そのとき、氷の魔石、というものを使って修理することを考えた。雨なら、凍ればもう通らなくなる。

 その結果、スライムさんも一緒に凍ってしまったという。


「めいあんだったんですけど」

「大失敗だよ!」

「でも、ひのませき、よういしてますよ!」

「火の魔石?」

「ここにあります!」


 スライムさんが口に白い宝石をくわえていた。ほんのすこし、赤く光っている。


「それは?」

「これはひのませきです! こおりのませきといっしょにもっていれば、どちらもこうかをださなくてあんしんになります!」

「でも凍ってたんでしょ?」

「ふっふっふ。とうぜんです! こおりのませきのほうが、おおきかったので!」

「大失敗だよ! なんで同じ大きさじゃないの!」

「おなじおおきさだったら、こおらせられないので!」

「その結果が大変なことに!」


 とにかく、スライムさんに、氷の魔石と同じ大きさの火の魔石を用意してもらえばいいらしい。


「あちち、あちち」

 スライムさんが上の方で言っている。


 どうやら、火の魔石のおかげで溶け始めたけど、もてあましているみたいだ。


 でもまだスライムさんの長い体はほとんど凍っている。


「あ」


 スライムさんが、上の方だけでバタバタしていたら、ぐらっ、と。

 柱のようになったスライムさんが、傾いて。


「スライムさん!」


 どうすることもできず、倒れてしまった。


 走っていくと、凍っていない部分と、凍っている部分の境目が割れていた。


 ちょうど、いつものサイズのスライムさんになっていた。


「スライムさん! 割れちゃったよ!」

「だいじょうぶです」

「だいじょうぶじゃないでしょ!」

「すらいむというのは、ほとんど、すいぶんでできているので、へってもへいきですよ」


 まあたしかに言われてみれば、折れてなくなったのはそもそも水で増えた部分だ。

「だいたい、にんげんもおなじです」

「え?」

「にんげんのだいぶぶんは、なにでできているかしっていますか?」

「なに?」

「そんなはなしより、はやく、こおりのませきをかたづけないと!」


 氷の魔石がどんどんまわりを凍らせていた。

「スライムさんが始めた話でしょ!」


 私たちは大急ぎで、スライムさんが持ってきた特別な箱に、氷の魔石と、すこし小さな火の魔石をいくつか入れてフタをした。


だんだんによろず屋の氷も溶けていった。

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