148 スライムさんとつけ
「これにしようかな」
「ほんとうにいいですか?」
カウンターの上には薬草が5つならんでいた。
今日は、スライムさんが私の目利きを見るという。
いい薬草、そうでもない薬草のうち、いい薬草を見分けられるか。
「これ、かな」
私は、緑色が強い薬草を選んでみた。
「いいですね……!」
「当たり?」
「みどりいろが、つよいです!」
「当たりはどれ?」
「やくそうに、あたり、はずれはありません……! ぜんぶあたりです……!」
「そっか……! そうだね……!」
「はい……!」
私は、硬貨をカウンターに置いた。
「じゃあ、これね」
「えいむさん、つけ、でいいですよ」
「つけ?」
「はい! つけです!」
「つけってなに?」
「おかねをはらうとき、あとまわしにして、まとめてはらう、やりかたです!」
「お金、あるよ」
「だめですか……?」
スライムさんは不安そうに私を見た。
「やりたいの?」
「はい! つけ、をおぼえてこそ、てんちょうです!」
スライムさんはくるっと回った。
「でも、ちゃんと払いたいけどな」
スライムさんだと、あとから言っても、いいよいいよとなりかねない。
「そうですか?」
「あんまり長くほうっておいたら、スライムさん、忘れない?」
「わすれませんよ!」
「絶対?」
「えいむさん、よのなかに、ぜったいは、ないんですよ……」
「じゃあ、ちょっとなあ」
「えいむさんは、つけ、やりたくないですか?」
「私?」
「つけで……、っていうだけで、おかねをはらわないで、かえれるんですよ?」
「それは楽だね」
「でしょう! いってみてください!」
「え?」
「はやく、はやく」
スライムさんがぴょんぴょんした。
「え、じゃあ……。スライムさん、今日はつけで……」
「おおー……!」
「どう?」
「いいかんじです!」
「つけで……」
「おおー……!」
「つけで……」
「おおー……!」
何回言っても感心してくれる。
なんだか、悪い気はしない。
「おとなでも、つけ、をやったことがないひともいますよ!」
「そうなの?」
「えいむさんは、なみの、おとなを、こえましたよ!」
「そうか……。私は、なみの大人をこえてしまったか……」
思えば遠くへ来たものだ。
「じゃあ、スライムさん。つけで……」
「はい! まいどありがとうございます!」
「じゃあ……」
私は、唇のはしを上げるように、すこしだけ笑って、よろず屋を出た。
そして、よろず屋のまわりを一周して、また入った。
「こんにちは」
「えいむさん!? かえったはずでは!?」
「つけを払いに来たよ」
「なんと! すぐくることで、つけをたいけんしつつ、おかねをすぐはらうことを、りょうりつ、したんですね!!」
「うん」
「さすが……! さすがのえいむさん……!」
「ではこれで」
私は硬貨を置いた。
「たしかに!」
「またね」
私は、人さし指と中指を合わせて立てて、ぴっ、と横に振った。
スライムさんが、くうー、さすがのエイムさんです! というのが背中に聞こえた。




